研究課題/領域番号 |
16K02324
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研究機関 | 東京国際大学 |
研究代表者 |
渋谷 哲也 東京国際大学, 国際関係学部, 教授 (90438789)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ドイツ映画 / 映画史 / ニューシネマ |
研究実績の概要 |
平成28年度は、研究対象である戦後ドイツ作家映画の歴史の再検証を主目的とした。ドイツ映画史は第一次大戦からヴァイマール期、ナチ時代、戦後の東西分裂、統一とグローバル化という社会と歴史の激動を反映しているため、それぞれの時代や文化圏の中で製作される映画の特性と評価について個別に行われてきた既存の研究を相関関係において検証し直す必要がある。とりわけナチ時代や東ドイツの映画を単純なイデオロギー批判ではなく、文化批判的な側面や国際的な評価も視野に入れ、ニュージャーマンシネマについても戦後の左翼文化だけでなく大衆文化全般の枠内で見直す必要が生じている。こうした相対的な読み直しにより、21世紀の作家映画に至る系譜を美的・政治的・経済的な側面で浮き彫りにできるのではないかと考えている。 実際の活動としては、映画の上映とレクチャーを定期的に開催し、一般観客と共にドイツ映画史のいくつかの断面を切り取って解明する試みを継続した。京都立誠シネマを会場として、4月にはドイツのメロドラマ映画とその脱構築について(コイトナー、ファスビンダー、シュレーター)過去の映画や文化的伝統をニューシネマがいかに批判的に継承したかを探り、10月にはファスビンダー作品を特集上映し、この作家の多面性を分析した。 また東西ドイツ映画の比較検証を始めることで、これまで別々に考察対象とされてきた映画文化を共時性や相互性の観点で読み直し、しかも作家映画的な試みの共通点や相違点を明らかにする試みも行い、「戦後ドイツの映画ポスター展」のカタログに小論を発表している。 その他ヨーロッパ映画についてさらに知見を深めるために広島国際映画祭、ベルリン国際映画祭に参加した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的通り、ファスビンダーを始めとした戦後ドイツの作家映画を重点的に研究するだけでなく、ナチ時代の映画や東ドイツ映画にも考察範囲を広げることができた。そうした成果は主に上映会と公開レクチャーの形で発表してきたが、今回の発表成果を踏まえてさらにドイツ映画史全般に渡る考察と国際的な影響関係についての考察を展開する必要も感じている。そこでこれらの研究成果を論文で公表するのは次年度以降の課題としたい。対象作品や時代が広範囲にわたるため作家映画の系譜を辿るにはさらなる作家や作品分析の作業が必要となるからである。 その一環として、広島国際映画祭ではフランスのニューシネマの中でもあまり知られざる存在であったディアゴナルの代表作品を観ることができ、また現代ドイツ映画の動向にも触れることで、研究にとって大きな刺激を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究テーマに関わる映画上映とレクチャーは、今年度も継続して行う。予定では今年度ドイツより映画作家を招聘し上映と討論を行う予定であるが、未だ候補監督との調整がついておらず、場合によってはその実現は次年度に回すことも考慮中である。また前年度の研究成果と併せて現代会での研究成果を学会発表や論文で公表する。とりわけ現代ドイツ作家映画の代表者であるアンゲラ・シャネレク、クリスティアン・ペッツォルト、トーマス・アルスランの考察を優先的に行うとともに、ファスビンダーとストローブ=ユイレについても継続的に作品分析や作家性の考察を進めてゆく。前者の三名については研究論文を執筆し、後者については共著による研究書に寄稿するべく準備を行っている。
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