研究課題/領域番号 |
16K02325
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研究機関 | 桜美林大学 |
研究代表者 |
岡田 万里子 桜美林大学, 人文学系, 准教授 (60298198)
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研究分担者 |
平舘 ゆう 桜美林大学, 芸術文化学群, 助手 (40736518)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 舞踊 / ダンス / 記録技術 / レコード / 日本舞踊 / バレエ |
研究実績の概要 |
本研究は、舞踊/ダンスの実践において、補助的な存在として重要視されてこなかった記録技術に注目し、これらが舞踊の表現や伝承にどのような影響を与えてきたか、総合的に考察しようとするものである。本年は、その全体的な位置づけ、方向性について議論を行ってきた。 舞踊/ダンスが受ける影響としては、演出の変化、大規模化と国家表象、稽古/レッスンにおける学習法の変化に分けて考察することとし、平成28年度は、特に学習法について考察を深めて来た。学習者が購読する雑誌の調査を行い、特に有用と判断したのが、『邦楽と舞踊』であった。雑誌『邦楽と舞踊』は、昭和25年に創刊され、戦後の急激な西洋化に対して危機感をもって発刊された日本の「伝統的な」舞踊と音楽の雑誌である。そのため、当該分野を包括的にあるいは周辺の題材までを扱っている。本研究課題と特に深い関わりがあったのが、7号より連載された「レコード舞踊講座」という連載であった。当初は、榊原帰逸という民族舞踊の舞踊家が振付・解説を行っているのだが、2年目になると、五条珠実、水木歌紅(初期映画の人気女優栗島すみ子)といった著名な舞踊家たちも競ってレコード舞踊を発表して行くようになり、レコード舞踊発表会といった舞踊会まで開催されていた。このほかにも、照明やラジオ・テレビなど新しい技術に関する記事も多く、この雑誌調査は有用であった。 また、研究会を重ねるうち、雑誌自体に記録機能があることや記録と著作権の関係など、付随した課題をも見出すことができた。本研究はバレエやモダンダンスといった西洋舞踊と日本舞踊との比較研究も行ってきており、学習過程における相違点は興味深い問題をはらんでいる。本研究グループは、12月の舞踊学会大会において、研究発表を行ったが、そこであたらたなネットワークを築くこともでき、今後の研究の発展が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べたように、雑誌『邦楽と舞踊』の調査は順調に進展した。当初は広告に焦点をあてるつもりであったが、じっさいには記事中にも本研究課題と深く関連するものが多く、調査範囲を広げざるを得なかった。その結果、当初想定したよりも興味深く重要な事例が多く、それぞれに対する議論が深まり、想定外の成果を得ることができた。しかし、その一方で、継続して調査・分析する必要のある課題も増え、それらに時間がとられたともいうことができる。 レコード・テープ類の調査に関しては、すでに目録化されているものに限って、調査が可能であった。レコード会社が出版した目録のような原資料にあたりたいと考えていたが、これらは閲覧するのも難しく、十分なデータを収集することができなかった。しかし、目録化されたものに限っても、舞踊用レコードは非常に多く制作されていたことがわかったため、時代を区切るなど範囲を設けて精査する方向に変更した。舞踊用レコードの使用体験については、複数方面から情報を収集しており、今後も継続して行く予定である。研究会の開催については、予定通り遂行することができた。学会発表も行い、今後、平成28年度の成果の論文執筆、ならびに次年度の研究計画に着手する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究は、レコード・映画等新出の機器・媒体に対する当時の舞踊家の認識の検討が中心となる予定である。じっさいには、昨年度、『邦楽と舞踊』の記事に関する検討を行ったため、前倒しで実施を開始しているといってよい。雑誌記事のほか、単行本で出版された芸談の調査も行い、レコード、ラジオ、映画、テレビ制作に関するエピソードを抜き書きし、分析する。 本研究の中核となるであろう、録音・録画機器の導入による日本舞踊稽古場/バレエ教室の変容に関する考察は引き続き行っていく。これらに関しては、先述の舞踊学会の発表の際、コンテンポラリーダンスや社交ダンスの研究者にも関心を持っていただき、その後ネットワークを築くことができたので、適宜意見交換を含め、比較研究を行っていきたいと考える。ヒトがダンスを習得していく過程に、記録技術がどのように作用するのかということを焦点に討議していく。 さらに、本年は技術に伴って展開された大規模な舞踊作品、さらには国家の表象としての舞踊作品についての検討も行っていく。研究代表者はすでに十五年戦争下の国家主義的で好戦的な舞踊作品について考察を行ってきたが、戦後のめざましい技術発展のなかで、こうした政治的な舞踊公演がどのように変容してきたか、検討する予定である。これに伴い、単なる記録技術ではないが、その補助的な技術としての音響・照明技術に関する検討も必要となる。 研究会の開催に際しては、今年度は、レコード等の音声機器に加え、1960 年代のテレビや家庭用ビデオ機器が発売された時代に、それらを利用した舞踊関係者の話を聞くなど、参加者を研究組織外に広げた企画も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年4月の国際会議において発表した英文原稿の校正代金(税込¥89,391/3月中旬執行)の処理が年度内に行えなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
すでに、上記の校正代金として使用済み。
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