研究課題/領域番号 |
16K02332
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研究機関 | 多摩美術大学 |
研究代表者 |
平出 隆 多摩美術大学, 美術学部, 教授 (90407825)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 芸術表現 / コンセプチュアル・アート / メールアート / アーティスト・ブック / 言語/形象 |
研究実績の概要 |
河原温は、自身の展覧会にまったく姿をあらわさず、写真を撮らせず、手跡を残さない、自作について語らないという、徹底した「作家神話排除」を行なってきた作家であった。したがって、その生涯の事実調査は、きわめて困難な課題としてありつづけた。しかし、平成26年度の逝去によって、調査研究の環境は一変した。河原温の遺志を承けて、遺族が当該研究者に対して、資料提供を開始したからである。 この流れのうちで、平成28年5月、遺族から「DATE PAINTING」「I GOT UP」「I AM STILL ALIVE」シリーズについての、作家自身の詳細な手控えの写し(タイトル・リスト、発信記録など)という重要資料が提供された。これにより、研究が新しい段階に入ったといえる。 河原温の制作物には、すべて日付が本来的に付帯する。このことは、生涯の制作の時間軸が、複数の作品のシリーズにおける日付から一体化して取り出せることを意味する。たとえば、ある一日において、複数のシリーズが制作された相互連関の様子などが判明するわけである。これまで、作品が世界中に散らばっている以上、それを一挙に調査することは不可能であった。ところが、上記の資料により、飛躍的に可能になった。 まだ「I MET」「I READ」やというシリーズの手控え資料が不足している。とはいえ、概念芸術の付帯する記録性によって、作品そのものの日付を通じ、作家自身によって忌避されたはずの伝記的記述が可能になるという次第である。しかしこの逆説は、作家の当初からの狙いであったとも考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
膨大な資料を入手したことにより、その生涯についての執筆方法が確定し、当初の計画を超えて進展しているといえる。ただし、これを言語化する作業もまた膨大な時間を必要とする。言語化作業を推進させるためのメディアの利用方法を検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
複数のシリーズの制作物に刻印されている、実時間軸に沿った作家の制作の時間記録から、その制作と行動の時間軸を一本化する。 そのための書き起こし作業を進める。作品化した時間の記録と活字化した言説とによって、 伝記的記述を行なう。すべてのシリーズの「連関」を見定め、連関の記述が、作家的な生涯の時間をあらわにしてくるようにする。並行して、次の3点を進め、上記の伝記的記述を補完する。 1)日本時代の言説を定着させる。 2)周辺の関係者からの聞き取り調査による証言を文字化し、これによって、作品化した時間軸の無機性を補う。 3)概念芸術における交友関係、とくに作家同士の交友関係及びその特殊性を調査する。 現在、複数シリーズの一本化による時間軸の取り出し作業において、作業を促進させるための雑誌掲載、冊子制作、郵便アート制作、SNSなど、さまざまなメディアの利用を検討中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、現地調査旅費の支出を予定していたが、ご遺族より本研究に係る膨大な資料が提供されたことにより、現地調査の予定を変更し、国内で資料分析に時間を費やすこととしため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は、調査旅費(約45万円)、証言テープ起こし費用(約30万円)、資料購入費(約30万円)、撮影備品費(約30万円)、研究成果取りまとめ費(約30万円)として使用予定である。
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