研究課題/領域番号 |
16K02332
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研究機関 | 多摩美術大学 |
研究代表者 |
平出 隆 多摩美術大学, 美術学部, 教授 (90407825)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 芸術表現 / コンセプチュアル・アート / メール・アート / アーティスト・ブック / 言語/形象 / 空中の本 / AIR LANGUAGE |
研究実績の概要 |
本年度の実績は、以下4点である。 1)遺族提供の制作記録資料の分析調査:河原温の遺族から提供された制作記録資料は「DATE PAINTING」「I GOT UP」「I AM STILL ALIVE」シリーズについての作家の手控え(タイトル・リスト、発信記録)である。この資料の解析に着手し、複数のシリーズの相互連関の調査に入った。作家自身が秘匿してきたと理解されてきた「実生活」の側面は、実は作品の表層に露出されてきた、と捉え直すことができる。 2)河原温の思想を軸にした美術館での展覧会の企画と開催:「言語と美術─平出隆と美術家たち」展(2018年10月~2019年1月/DIC川村記念美術館)において、当研究者がすべてを企画し、また美術に関わる「言語/形象」の構造体として、建築家青木淳との協働により、会場を「言語」と「形象」との「終わりなき対話」として設計した。その中心線には河原温によっても注目された企画者制作の Printed Matters を置くことで、本研究で追求してきた「言語と形象」問題の核心を構造的に示しえた。 3)展覧会のアーカイヴ化:展覧会のアーカイヴ化を開始することによって、河原温はじめ、相関しあう美術家たちにとっての「言語/形象」的思考を、web空間においても構造化するプロジェクトを開始した。これは展覧会の再現・保存というのみならず、それに即して制作された図録を土台とし、補完していく対象とし、永続的な研究システムとして活用していくものである。 4)河原温コレクション:河原温制作のアーティストブックをコレクションし、《I GOT UP》 《I WENT》 《I MET》 《ONE MILLION YEARS》 、死後刊行の《I READ》などを蒐集し、研究資料体の形成が進んだ。入手の難しい《CODES》を残すが、岡崎和郎氏宛の特異な手紙の寄贈を受けることになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
DIC川村記念美術館での展覧会「言語と美術─平出隆と美術家たち」展は、河原温を中心とした10人ほどの同時代の芸術家と本研究者との間に長年にわたる「言語/形象」の「対話」関係を示そうとするものとなった。当研究者の「言語/形象」の思考に沿った展覧会会場の設計、およびその構造を反映させた『展覧会図録』に対しての鑑賞者一般及び研究者からの反響は大きく、研究が運動体となっていく感がある。 また、アーティストブックを中心にした資料体の蒐集も順調に進んでおり、特に制作記録資料については、各シリーズ資料間の連関調査による「生涯という多次元構造体」を明らかにする段階にまで進んだ。 さらには、河原温における「印刷」や「書物」をめぐる研究から「空中の本」「AIR LANGUAGE」という概念が把握され、問題の共有化に向けて飛躍的に進捗したことを確信した。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況を踏まえ、展示のために青木淳の設計した器の保存や展覧会のweb上のアーカイヴ化や海外への展開計画など、他の研究者、学芸員とともに新しい研究システムの構築を目指す研究会を定例化した。 また、研究成果として当該作家の評伝執筆、出版社からの刊行を計画している。 今後の方向として、河原温を中心にした「原子物理学的書物論」「形象的思考の構造化」といった課題が掲げられている。本研究で継続的に主題とした「言語/形象」の問題系は、広く共有しやすい概念として「空中の本へ=AIR LANGUAGE プログラム」と名づけ、研究を推進するとともに外部への発信を行うものとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度に河原温研究の成果の一つである美術展「言語と美術──平出隆と美術家たち」を開催し、その研究成果の海外への発信や、研究成果として河原温の評伝執筆と刊行の予定がある。それらの交通費、消耗品代などの諸経費として、次年度経費を使用する。
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