本研究は、戦後ドイツ(とくに旧西ドイツ)の美術界および美術研究において、戦前のいわゆる「歴史的アヴァンギャルド」とくにダダやシュルレアリスムがどのように再評価され、20世紀美術史として記述されてきたかを検証することを目的とした。文献収集と研究、および現地調査とドイツの研究者との交流などをとおして、1950 年代から80 年代にかけてのダダ受容およびシュルレアリスムと新即物主義の受容の実態があきらかになった。 まず、初年度である2016年度に、ドイツにおけるダダの戦後受容について集中的に調査し、シュルレアリスムの前段階としてのダダという理解が強い英米圏とは異なる、ドイツ独自のダダの受容があったことを明らかにした。そのうえで、1960~70年代の政治的な側面を重視したダダ理解から、80年代以降のポストモダンの思想のなかで、思考のパラダイム転換としてのダダ理解へと変化したことを指摘した。調査の結果は、 2016年度の美学会全国大会シンポジウム(同志社大学)にて、「”ダダの美学”の今日的意義──スローターダイクの芸術論」として口頭発表し、同大学の紀要に掲載した。 さらに、その後は戦後ドイツにおけるダダの受容とジェンダー美術史研究との関係を明らかにし、ダダの女性メンバーであったハンナ・ヘーヒの作品研究が、1970~1980年代ドイツの大学や美術館におけるジェンダー研究と展覧会に果たした役割を調査した。最終年度は夏季に行ったドイツ現地調査の結果を踏まえ、ハンナ・ヘーヒを中心に据えたダダの受容論としてまとめた。成果は、主として最終年度の刊行物によって公にした。
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