本研究は最初に、能楽囃子太鼓方観世家(以下、太鼓観世家とする)が所蔵する資料『入門者摘録』(全2冊)の翻刻と解読を行った。これにより、囃子方の家元が弟子に行った伝授と受容の諸相が解明された。これを踏まえて、近代の囃子方の動向について総合的視野から考察した。また、太鼓観世家が所蔵する約1000点の資料調査に着手し、データ―ベース化に向けたリストの作成を進めた。 『入門者摘録』は今までその存在がまったく知られていなかった資料で、今回の研究により、文化6年(1809)11月から昭和21年(1946)5月までの約140年間、太鼓観世家に入門した1100名余の弟子に関する情報を記すものであることが判明した。その情報とは、姓名・身分・家系・職業・取次者・取立者・師匠・入門日・伝授の内容などである。ちなみに前述の140年間の太鼓観世家は、11世重道、12世元恭、13世元常、14世元規、15世元継、16世元信と、6代にわたる時代である。 本研究は初代梅若実資料研究会による共同研究の形で行った。構成員は、小林責(武蔵野大学名誉教授・元同大学能楽資料センター長。2018年5月まで)、加賀谷真子(米国ウィリアムズ大学教授・能楽資料センター研究員)、氣多恵子(近世日本文学研究家。2018年3月まで)、高橋葉子(京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター客員研究員・能楽資料センター研究員)、土谷桃子(岐阜大学教授)、中司由起子(法政大学能楽研究所兼任所員)、深澤希望(相模女子大学非常勤講師)、別府真理子(能楽資料センター研究室員)、それと研究代表者である三浦裕子(武蔵野大学文学部教授・能楽資料センター長)である。 なお、本研究においては、太鼓観世家から数々のご助言を頂戴した。
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