研究課題/領域番号 |
16K02342
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
藤井 仁子 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (40350285)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | スピルバーグ / 映画作家 / 現代アメリカ映画 / ブロックバスター / 政治的映画理論 / 『未知との遭遇』 |
研究実績の概要 |
スティーヴン・スピルバーグ研究に特化するという当初の年度計画に従い、文献・資料の収集にあたりつつ作品分析を進め、単著でのスピルバーグ論の執筆を本格的に開始した。ただし、実際に研究を進めるなかで二つほど軌道修正の必要が生じた。 第一に、映画における作家性の問題。集団で作られる映画にあって監督を映画と見なすことは自明ではなく、作家論の枠内で政治的映画理論の構築を目指す本研究にとっては、この問題にあらかじめ明確な解答を与えることがすべての議論の前提となるからである(さもなければ監督個人の政治信条や作品に込められた政治的メッセージといった、きわめてナイーヴな議論で終わってしまう)。本年度はこの作業にかなりの労力を割かれることになったが、不断に書き換えらえるプロセスとしての作家性というアイデアを首尾よく得て、当該箇所の草稿執筆をすでに終えた。なお、これについては理論的に一般化した形で日本映像学会第43回大会(6月4日)において口頭発表を行うことが決まっている(概要集の原稿も提出済み)。 第二に、スピルバーグの代表作の一つであり、その後の現代的なブロックバスター(商業主義的超大作)の雛形ともなった『未知との遭遇』(1977年)の問題。圧倒的なテクノロジーの力で言語を超えた普遍的な経験を観客にもたらしたこの作品の重要性が研究を進めるほどに明らかになった。これについては、現時点での成果をまとめて日本映像学会映像テクスト分析研究会で「「忘れられた人」宇宙へ行く――『未知との遭遇』の政治神学」と題した口頭発表を行った(3月4日)。 これらに加え、9月14~22日には米国ロサンゼルスで資料調査を実施した。南カリフォルニア大学所蔵のリック・カーター・コレクションにはスピルバーグ作品に関する貴重な一次資料が含まれ、特に製作時のメモからは映画を見るだけは知りえない、重要な情報を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
確実に進捗はしているが、「研究実績の概要」で述べたように、議論全体の前提となる理論的な基礎固めに当初想定していた以上の時間をとられた。ただし、これは研究の質を高めるためにどうしても必要な作業だったと考えている。これも上述したように、日本映像学会映像テクスト分析研究会、ならびに日本映像学会第43回大会(予定)での成果発表がすでに進んでおり、全体としては「おおむね順調に進展している」と判断できる。 米国での資料調査も、新しい年代のものほど充実しているというリック・カーター・コレクションの性格上、当初の計画と異なり、2000年代のスピルバーグ監督作(『宇宙戦争』と『ミュンヘン』)を中心に実施したが、作品分析の結果を裏づける興味深い発見がいくつか得られた。しかし、近年の作品については現時点で研究が後回しになっているので、実際にこの発見を活かした成果を発表するのは今後の課題である。 以上のように、当初計画していた部分では作業が遅れているが、代わりに別な部分で確実な進展があった。スピルバーグ研究の全体を単著にまとめるという目標からすると、特に問題なく初年度を終えることができたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように、初年度の進捗に当初の計画から多少の変更点が生じたので、この変更を踏まえつつ、スピルバーグ論を単著にまとめることが平成29年度の最大の課題である。特に、米国での資料調査の成果を活かして2000年代以降の作品について執筆を進めることが急務であろう。ちなみに、本年度は特別研究期間を取得しているので、本研究に専念することができる。 いずれにせよ、計画通り今年度中に原稿を完成させることを目指すが、実際の刊行が遅れる場合には、計画していた研究集会もそれに伴って30年度にずれこむ可能性がある(当初の研究計画から想定していたことである)。その場合は研究集会開催に関わる予算の執行を来年度に延期することがありえる。担当編集者とも相談しながら検討していきたい。 その他に、理論的な部分での成果を論文化することを計画していたが、これは6月4日に行う日本映像学会第43回大会での口頭発表によりひとまず果たされるので、単著執筆を優先すべきと考えている。 スピルバーグ研究に区切りがつき次第、クリント・イーストウッド研究に本格的に着手するが、スピルバーグの最近作とイーストウッドの最近作とは多くの問題を共有しているというのが本研究の当初からの見立てである。スピルバーグ論の執筆が順調に進捗すれば、自ずからイーストウッド研究の具体的な方向性も明確になるはずである。
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次年度使用額が生じた理由 |
少額であり、次年度にまとめて費消するほうが合理的と判断されたため。
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次年度使用額の使用計画 |
消耗品費として費消する予定である。
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