研究の3年目、最終年度にあたる。遅れていたスティーヴン・スピルバーグ論の単著を刊行し、クリント・イーストウッド論の執筆に移ることが今年度の目標だったが、大いに進捗はあったものの実現できなかった。研究を進めていく過程で、スピルバーグ映画を常にモデルとすることでハリウッド映画の現代史が成立してきたとの仮説を得、政治や歴史の取り扱いに関してもこの着眼を踏まえて論全体を組みなおす必要に迫られたためである。しかし、研究の質は当初の計画以上のものになったという自負があり、後は執筆するだけの段階に達しているため、2019年中の刊行を目指したい(現時点で20万字超執筆)。 プロジェクト全体の成果発表として「現代アメリカ映画への政治的視角――イーストウッドとスピルバーグ」と題した連続討議を早稲田大学で開催し(2018年12月8日と2019年1月12日の全2回)、また神戸映画資料館でも「リンカーンはなぜ殺される――『若き日のリンカーン』と〈創設〉の問題」と題した講演を行った(12月23日)。いずれも当初の計画に沿って成果を広く一般に発信するためのもので(スピルバーグについては当初2年目に開催するはずだったもの)、多くの参加者を得て密度の高い議論を展開できた。連続討議ではイーストウッドに関して映画監督の濱口竜介氏を、スピルバーグに関して映画研究者の中村秀之氏(立教大学教授)を対話者に迎え、実作者や他の研究者と意見交換する計画は達成されたと考える。 9月にはロンドンの英国映画協会(BFI)で1週間ほど資料調査を実施した。プレスブックと呼ばれる興行・宣伝上の重要資料の体系的なコレクションを所蔵しているためで、閲覧が制限されている貴重資料を含め、スピルバーグとイーストウッド、またフランク・キャプラらに関する資料を調査することで、議論を補強しうる傍証を数多く得た。その成果は単著に積極的に反映させたい。
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