本年度は、最終年度として、これまでの調査結果のまとめ、ならびに成果報告を行った。2019年は、韓国の三・一独立運動から100年という記念の年でもあったため、韓国の博物館ではこれをテーマとした企画展が多く開催された。 その中で、国立中央博物館(韓国)の「近代書画―春の黎明の目覚め」展は、朝鮮王朝最後の図画署画員であった安中植(1861-1919)逝去から100年という年を記念したもので、国立中央博物館としては初めての近代書画展の開催となった。また、同時期に佐野市郷土博物館で開催された「須永文庫資料展‐日韓の近代」展では、同博物館所蔵の須永文庫におさめられた多数の近代朝鮮人書画家らの作品を広く紹介するものであった。筆者は、これまでの本研究成果の一部を両展において還元し、広くその成果を伝えることができた。特に佐野市郷土博物館の企画展では、「須永文庫における朝鮮書画について―朝鮮人士たちとの交流を中心に―」と題し、記念講演会を行うことで、本研究成果を広く一般に伝えた。 また、高麗美術館、国立中央博物館(韓国)において、朝鮮美術研究者から職業書芸家の「書」認識に関する研究成果について専門家の見地からアドバイスをいただくことができた。さらに、全国大学書道学会、書学書道史学会において、中国、日本を専門とする書道研究者らと、同時期の朝鮮近代の書家の位置づけについて、意見交換を行うことができた。 それらの指摘をふまえ、本研究テーマである植民地期朝鮮における職業書芸家の「書」認識について、これまでの調査結果から分析を行い、具体的かつ立体的に明らかにすることができた。本研究の成果は、「近代朝鮮における書の専業化過程とその特徴 ―官僚出身書人の動向を中心に―」(書学書道史学会『書学書道史研究』第29号、2019年10月)として学会誌に発表し、広く成果を還元した。
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