研究課題/領域番号 |
16K02352
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研究機関 | 松山大学 |
研究代表者 |
黒田 晴之 松山大学, 経済学部, 教授 (80320109)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 大衆芸術 / フォーク / 新移民 / 音楽言説 / レベーティコ / クレズマー / ギリシア / セファルディー |
研究実績の概要 |
1880年代後半からアメリカ合衆国に渡った「新移民」(中欧・東欧・南欧の出身者で、ユダヤ人も含む)の音楽が、20世紀を通じてアメリカ社会にどのように受容されたかを、音楽言説を辿りながら実証的に跡付けるのが、本研究課題の目的である。新移民の音楽は自分たちの移民共同体内では存続していたが、アメリカ音楽の主流からは一時期までほぼ無視されてきた。ただし近年はこの手の音楽にも新たな演奏や旧録の復刻の機会が与えられつつある。こうした新移民音楽の無視と復活の実際について、音楽界で指導的言説を形成してきた批評に着目することで、これらの移民文化の社会全体への統合の推移を検証する。 初年度は研究実施計画に基づいて、フォーク音楽の言説を形成したアメリカの若干の雑誌をサーヴェイするとともに、ユダヤ人とギリシア人の音楽を中心に資料収集に努め、ギリシア本土での現地調査も実施した。こうした研究の成果としてまず、移民の送り出し国における音楽事情を精査した単著論文、「『エレニの旅』の影で――ギリシア音楽とユダヤ人たち」を、関係研究会の機関誌に投稿した。ここでは20世紀前半にギリシア音楽「レベーティコ」で活動していたユダヤ人をめぐり、かれらの音楽について基礎的な事実関係を記述するだけでなく、こうした音楽家が2000年前後の2本の映画でどうイメージされているかを、批判的に検討した。 さらには東欧ユダヤ人の音楽「クレズマー」およびその研究の現段階におけるレヴューを、独文学会からの依頼エッセイ「ユダヤ音楽の現在を一瞥する」としてまとめた(オンライン発表)。 2年目は当初の研究実施計画通り、国外の関係者を招聘して、国内の研究者・関係者との徹底討議の場を設けるため、現在その準備を進めている。具体的にはThe Klezmaticsの創設メンバーFrank London氏を招聘し、一般市民にも開かれた対話の場にしたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」でも示したように、音楽資料は収集が進捗したと考えられるが、移民たちの生活背景に関する資料については、さらに調査・収集を進めなければならない。ただしギリシア系移民の送り出し国における音楽事情をめぐる論文、東欧ユダヤ人の音楽「クレズマー」およびその研究の現段階におけるレヴューをまとめることで、本研究のおおよその見取り図はできたと考えられる。 2年目に実施するFrank London氏招聘については、London氏本人および日本側の研究者・関係者とも、メールで頻繁に情報・意見の交換を行なった。
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今後の研究の推進方策 |
2年目は前述のように研究実施計画通り、The Klezmaticsの創設メンバーFrank London氏を招聘して、国内の研究者・関係者との徹底討議の場を、各関係協力大学とのコンソーシアム形式で設け、一般市民にも開かれた対話の場にするつもりである。このことによって新移民の音楽が、アメリカ音楽の主流からは無視されてきた事情、近年になって新たな活動の機会が与えられつつある経緯について、クレズマーのリヴァイヴァルに直接立ち会って、30年も活動を続けている本人から、生の声を聞くことができると確信している。おそらく招聘事業の副産物になると思われるが、誕生間もないトランプ政権にたいする、アメリカのユダヤ系住民の意識についても、率直な意見が聞けるものと推測する。 こうした事業とは別に2年目以降は、移民受け入れ側のアメリカについて、各種資料の収集とその検討を、本格的に開始する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末までにごく一部の未使用額が残った。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の研究費一般に充てる。
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