1880年代後半ごろからアメリカに渡った「新移民」(中欧・東欧・南欧の出身者で、ユダヤ人も含む)の音楽家は、20世紀当初は活発な活動を行ない、大手・民族別のレーベルを問わず盛んに録音も行なったが、大恐慌によって壊滅的な打撃を受けた。新移民の音楽の本格的な(再)評価が始まるのは、1970年代後半ぐらいからで、この時期までのフォーク・ブームが一段落したころと同期する。当時から今日までの音楽雑誌、民族音楽研究、レコードやCDのリリースからも、このことは裏付けられる。過去の音源が整理されて研究が進められる一方で、新しい解釈で演奏する音楽家も出てきた。東西冷戦の終結などののち、新移民の音楽は、ワールド・ミュージックの枠で認知される。 本研究期間中には、東欧ユダヤ音楽「クレズマー」のリヴァイヴァルに深く関わった、Frank London氏(バンドThe Klezmaticsの設立メンバー)、Henry Sapoznik氏(バンドKapelyeの設立メンバーで、ニューヨークのユダヤ学研究所YIVOのArchives of Recorded Soundで初代ディレクターを務め、クレズマーのワークショップKlezKampも立ち上げた)、ギリシャやオーストラリアの「レベティコ」(ギリシャのポピュラー音楽)の音楽家と、一般市民向け講演会・音楽会も催して、本研究課題に関する知見が得られた。 こうして新移民の音楽活動の推移について明らかにし、本研究課題の成果の一部は、本報告者が翻訳者として2023年に刊行したイオアニス・ゼレポス『ギリシャの音楽、レベティコ』(風響社)の解説のなかで詳述するとともに、本報告者が総合ディレクターの1人を務めた「Lecture & Concert: レベティコーー東と西のはざまで」(2022年12月、東洋大)でも報告することで、一般市民にも向けて発表することができた。
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