本研究は、16世紀に製作された社寺縁起絵巻のうち、とくに『釈迦堂縁起』について、成立圏の近接する『真如堂縁起』等をも参照しつつ、絵と詞書とを註釈的に読みすすめることで、作品の総合的な理解を目指すものである。 本年度もまた、2回の研究会を開催し、詞書の註釈作業と研究報告とを行った。詞書註釈に関しては、研究代表者の本井牧子、研究協力者の柴田芳成、金光桂子を中心とする日本文学研究者と、美術史の研究者の出席のもと、多角的にその内容を検討した。その結果、詞書成立の背景に、清凉寺の本尊如来の造形や伝承、清凉寺と近接した寺院との緊張関係があることが、より鮮明に浮上してきた。さらに、『真如堂縁起』との共通話型に関しては、先行する寺社縁起や霊験記、さらには観仏を説く経典等に淵源を求めることができることなどもあきらかになった。 絵に関しては、『釈迦堂縁起』の仏伝部分の絵について研究のある土谷真紀氏による研究報告を通じて、図像の典拠として指摘される中国の版本との関わりや、『真如堂縁起』との密接な関連についての知見を得て、今後絵を検討する際の問題意識を共有することができた。 以上のように、詞書と絵との註釈作業を進めるなかで、研究会参加者の間で、問題意識の深化・共有がはかられることとなり、日本文学のみならず、美術史研究者の参加をも得た上で、研究組織を拡大し、さらに精緻な註釈を進める方向性が確認された。そこで、研究計画最終年度前年度応募として、本研究を発展させた研究課題を申請する運びとなった。今後は、註釈研究を継続しつつ、『釈迦堂縁起』を多角的に定位することを目指した研究を継続する計画である。
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