| 研究課題/領域番号 |
16K02358
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| 研究機関 | 筑波大学 |
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研究代表者 |
吉森 佳奈子 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (10302829)
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| 研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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| キーワード | 『河海抄』 / 『花鳥余情』 / 『源氏物語』 / 年代記 / 『河海抄類字』 / 『三教指帰』 / 『帝王編年記』 / 『一代要記』 |
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| 研究実績の概要 |
2017年度は、研究の二年目にあたるため、初年度の基礎研究の成果をもとに、これまでの研究代表者の研究成果をふまえながら、より発展的に独自の視座をひらくことを目ざした。具体的には、六国史断絶後の歴史記述の基盤について考え、物語の注釈書である『河海抄』が、中世の年代記生成の現場と不可分に接点をもつことを指摘するなかで、以後の『源氏物語』注釈書とは時間認識が異なり、それが注釈の基本的な姿勢の違いとなっていることに気づくに至り、その問題を中心に研究した。成果として、史上の例と『源氏物語』に描かれたものが、以後の歴史記述にどのようにかかわったか、さらにそれが『河海抄』と、以後の注釈書ではどのように異なるかという視座による研究「『河海抄』の注の終焉」を執筆、学会誌に投稿、審査を経て掲載された。この論文は、『源氏物語』にあらわれる前坊について、『河海抄』が、東宮在位中に亡くなったことによる史上の例をあげて注していること、それにたいし『河海抄』以後の注釈書は皆、東宮退位の文脈で捉えていることに注目し、『河海抄』の注釈態度が年代記類を中心とする後の私撰国史生成に多大な影響を与える一方で、『源氏物語』注釈史においては『河海抄』より百年ほど後に成立した全巻注釈である『花鳥余情』の注が受け継がれて現代に至っている状況を、歴史学、思想史にも相渉りながら広い視野で研究したものである。中世の私撰国史において、『源氏物語』が、『河海抄』のあげる史上の実例と並んであげられていることを見、貴族社会の終焉期にあって、『源氏物語』が、日常、現実に近いところで先例と見なされていたことを検証、『河海抄』が年代記類にうかがわれる歴史認識生成に関与していったさまについて考察した。
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| 現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2017年度は、①『源氏物語』注釈史と、官撰国史断絶後の歴史記述の接点にかんする研究、②善本がないという理由で立ち遅れている『河海抄』の伝本研究と、本文確定のための研究、の、具体的なふたつのテーマをたて、本研究課題を進めてゆく計画で研究を行った。
①にかんしては、東宮退位、東宮在位中の死の史上の例に注目し、『源氏物語』注釈史を問いなおす研究を行った。その過程で、『河海抄』と『花鳥余情』のあいだに注釈史の断絶というべき違いがあることに思い至り、論文を執筆した。また、この研究をとおして、『栄花物語』、『大鏡』など、『源氏物語』以後の成立の歴史物語にかんして、従来、直接の影響関係に注目してすすめられてきた現状を、注釈史の問題、歴史記述成立の問題として捉えなおす視座を得、2018年度に継続してゆく方針である。
これまでの研究で、個人的な覚え書きと見なされて殆ど注目されてこなかった『河海抄類字』が、『河海抄』の伝本研究に重要な役割を担っている可能性について見とおしを得て研究を進めている。2017年度、前年度にひきつづき、所蔵者ひとつである無窮会神習文庫の改修工事が終了せず、蔵書の閲覧ができない状況が続いており、次年度に継続せざるを得ない課題を残した。現存伝本が少ないため、他の伝本で代行することが不可能であるという事情による。しかし、この状況を承けて暫定的に行った調査により、従来の研究では、依拠した『河海抄』の伝本が不明とされていた『河海抄類字』のうち二本について、底本をあきらかにすることを得たのは、本研究課題の、上記②研究を進めるうえで大きな収穫であった。ひきつづき研究を継続してゆきたい。
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| 今後の研究の推進方策 |
2018年度は、研究の最終年度にあたるため、本研究課題による研究の総括に力を注ぎたい。前年度にひきつづき、『河海抄』の文献学的な基礎研究に力を注ぐ一方で、『源氏物語』注釈史と私撰国史生成の現場の接点について具体的に考える。
研究の第一として、『源氏物語』の全巻注釈書、『河海抄』所引の歴史記述をとりあげ、物語が歴史によって注釈されることの問題のひろがりを考え、歴史記述生成の現場とのかかわりについて探る。
さらに、研究の第二として、研究の第一とのかかわりのなかで、『源氏物語』注釈史と『三教指帰』注釈史とが合流するところで成り立っている歴史記述に注目して研究をすすめる。この問題については、研究年度の三年間を一貫し、2016年度から継続して研究をすすめているが、そのまとめとなる研究成果を問うことを目ざしたい。
研究の第三として、本研究課題では、善本はないと指摘される『河海抄』の複雑な異文状況が、同時代の歴史認識の問題と不可分に生じたものであることを解明することをめざしているが、従来、私的な手控が偶然後に伝えられたにすぎないものとして、『源氏物語』注釈史からまったく注目されてこなかった『河海抄類字』のもつ意味について解明しつつある。最終年度となる2018年度は、とくにこの問題を中心にをとりあげて考察してゆく。『河海抄類字』への注目が、ややもすると停滞しがちな『河海抄』の文献学的研究の発展に大きな意味を担い得ることを問題として提起してゆく。
これらの研究にかんしては、主として学会誌等に論文を投稿するかたちで、本研究の成果を問う。また、とくに、上記研究の第一、第二については、本年度の筑波大学における講義、演習内容ともかかわるため、随時研究成果を教育の場に生かしてゆくことを心がける。
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