2018年度は、本研究課題の最終年度にあたるため、総括として、2016年度の研究である、文献学の方法による『河海抄』の本文研究にひき続き力を注ぐ一方で、2019年度以降行ってゆく予定の研究の準備として、『河海抄類字』の文献調査にも積極的に着手した。また、2017年度の、『源氏物語』注釈史が何に依拠して構成されたかを考察する研究を継続し、とくに近世期の歴史記述に注目、『源氏物語』注釈と、前近代の各時代の、歴史認識の生成と、教養の基盤の問題について成果発表につとめた。また、研究を、社会的に還元する活動の一環として、他の研究者の成果の書評・紹介等にも力を注いだ。 研究の総括年度の課題として、本課題の研究年次をつうじて行ってきた『河海抄』本文研究の成果をもとに、従来の文献学的方法のなかに閉ざすのではない、『源氏物語』、『源氏物語』注釈が実際に生きていた空間から本文を見きわめてゆく方法の可能性を、学会誌等に論文を発表するかたちで問うことをつづけた。この問題については、2019年度以降もひき続き継続し、研究成果発信につとめる。 さらに、注釈史においてどのようなジェンダーバイアスが認められるかという新たな研究の視座を得て、本課題において考察してきた、歴史認識の生成の問題、漢字による和語の注の問題とかかわらせ、中世から近世に至る『源氏物語』注釈史を描きだす新たな研究の方向性を、研究論文だけでなく、書評のかたちで提起した。 研究年次の三年間の基盤となる研究として考察してきた、物語の注釈が史実によってなされることの問題性、特異性について、とくに『河海抄』と同時代の私撰国史生成の現場とのかかわりを見、六国史後、正史を持たなかった日本において、歴史認識はどのように構成されたかという問題とかかわらせながら、本課題の統括となる研究をすすめた。
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