研究課題/領域番号 |
16K02362
|
研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
鈴木 孝庸 新潟大学, 人文社会科学系, 名誉教授 (90143742)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 平家物語 / 平曲 / 平家琵琶 / 平家語り / 譜本 / 平家正節 / 前田流 / 波多野流 |
研究実績の概要 |
1、新出の『平家正節』(欠有り。27册存)の検討。某古書肆に出た平家物語音譜本4点のうちの1点で、購入し検討を開始した。残存の形態、各册に付記された通し番号から推測して、おそらく40册(あるいは41册)揃いの『平家正節』が、なんらかの理由により、欠けてしまったものと推測される。字体、墨譜の形など整った、演誦用にも適した譜本と評価できる。注目すべきは、各句の冒頭「句名」の右上部に「似珠紅」(関防印か)の朱印があることである。この印は、『平家正節』の制定者・荻野検校の子孫・尾﨑家に蔵せられる譜本の数冊に捺された印と同じである。尾﨑家あるいは尾張藩に近いところにあった可能性も考えられる。 2、「三十日連続演誦による一部平家」の実行、完結。私の研究に平曲の実演が欠かせない。これまで大きな演奏会形式としては、断続的な機会を設けて、平家物語を物語順に語り通す「一部平家」を行ったが、本年度はかねて計画中の「三十日連続演誦による一部平家」を、福井県越前市の曹洞宗萬象山御誕生寺を会場に、9/25(日)からはじめ、10/24(月)に完結した。室町~江戸初期に行われていたらしき連日演誦による「一部平家」を、何百年ぶりかに再現、追体験したのである。経過報告は文章化した。 3、平家物語のテキストに対して演誦者はどのような位置にあるのかという問題意識での考察。平家物語で「大音聲」と出てくる発言箇所を、平曲はどのような曲節配分にしているのかということを、調査考察した。「高い」「大きい」「強い」曲節で扱わない傾向にあることを検証した。これは、感情的表現の曲節〈折聲〉のあり方とも通じる傾向と考えられる。 4、国語古典教材「木曾最期」について、平曲の側からの私見を文章化した。高校等で招かれての私の演誦体験などが下地になっている。 5、「慈心坊」を素材に、仏教的言説と平家語りとの関係の考察第一弾を出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主たる対象は、1、平曲譜本、2、平曲指南書、3、當道資料であるが、2は、当初予定の資料の調査はほぼ終わっており、新出の資料の出現の可能性は低い、3も当初予定の資料はほぼ終わっており、『當道資料集成』刊行にむけての態勢を取らねばならぬ段階に至っている。 したがって、本研究は、1の平曲譜本を中心に進めている段階になっている。 平曲譜本に関しては、しばしば古書肆あるいは古書展などにあらたなものが登場する。それらも出来るだけ(購入は難しいとしても)調査を行うように心がけている。
|
今後の研究の推進方策 |
公的機関所蔵の平曲譜本も、調査未了はわずかになっているが、アメリカ議会図書館に平曲譜本が所蔵されていることを最近知った。公的資金援助が得られれば、調査したいと考えている。 國立臺灣大學圖書館特藏組の平曲譜本の刊行は、コロナ関連で中断していたが、最近再開したところである。全三巻で刊行予定の、第一巻は刊行済みであるが、第二巻を出来るだけ早い時点で刊行できるよう原稿を提出したいと考えている。 平曲譜本の中で最も伝本の多いのは『平家正節』であるが、実際に演誦に携わった者が所持していたらしき伝本が多く、こまかな演誦上の注意などが、それぞれ独自に書き込まれている傾向にあるようである。これらを出来るだけ収集すべきと考えはじめている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度使用すべき品目が、なかったためである。
|