1、平曲・平家語りを行う演誦者は、物語の本文(テキスト)および物語世界および聴衆に対して、どのような位置にあるのかの研究。平家物語の登場人物が発言する(特に感情的な強調的な)ことばを、平曲がどのような曲節配分にしているのかを、各種の平曲譜本の調査を通して考えてきている。曲節は〈折声〉〈強声〉が特徴的である。しかし、大事なことは、登場人物が熱く一人称的にあることばを〈折声〉や〈強声〉で発しはじめたとしても、平曲では、そのことばの途中から別の曲節(〈口説〉や〈白声〉など)に転じてしまうことが多いことである。平曲は、登場人物を独立させず、演誦者の三人称的冷静な視点から引き取って、ものがたりを進めることを基本としているからである。本年度は、登場人物の発声ではないが〈折声〉で扱っている地の文や典拠ある表現の引用などに注目し検討を行った。登場人物の発言と同じような曲節配分となっていることを確認した。 2、私は「一部平家」をはじめとして、室町時代、江戸時代に行われた演奏会形式の再現を通じて、平家語りの過去の実態、長編物語への曲節配分などを考えてきているが、本年度は平曲演誦者数名に声をかけて、「卷通し(まきとおし)」を再現してみた。これは、平家物語十二巻の各卷から一句(一章段)を取り出して、十二句を卷の順に語り進めるという演奏会の持ち方であるが。いくつかの問題に気づくことがあった。 3、コロナ禍のため渡航が出来ず中断せざるを得なかった海外所蔵の平家物語音譜本の紹介のうち、臺灣大學所蔵の仕事については、4月に久しぶりに臺灣大學圖書館特藏組に赴き、現地スタッフと打ち合わせをし直して再開した。 4、私自身の演誦活動も、「平曲伝承資料」の様々な意味を知るきっかけになるので欠かすことが出来ない。本年度は、駒澤大学、筑波大学附属坂戸高校、神奈川県立横浜翠嵐高校など全11回、解説と演誦を行った。
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