令和2年度は、主として岩国学校教育資料館が所蔵する古教科書類の閲覧調査を行った。岩国学校教育資料館1階の「教科書展示室」には、江戸時代に寺子屋で教本として使用されたと考えられる往来物や啓蒙書の類をはじめとして、明治期以降の学校教科書が現代まで年代を追って展示ケース内に整然と展示されている。そのうち、明治30年頃までに刊行されたものがいわゆる和綴教科書である。展示ケース内の和綴教科書の調査はすでに平成28年度以来、少しずつ行ってきたのだが、令和2年度は重点的に行ってケース内の教科書の調査を早くに終え、引き続いて2階収蔵庫に保管されている古教科書資料の調査に取りかかった。 2階収蔵庫内の資料は、衣装箱10個に収められており、近代の洋装本も混ざってはいるが、過半数は和綴本であり、教科書のみならず著者自筆稿本や和刻本漢籍をも含む古典籍が多数存在することがわかった。収蔵庫内にはあまり多くの資料はないと聞いていたので、予想外の点数に驚き、調査の手間を思うと困惑もしたが、多くの新出資料を発見したことは喜ばしいことであり、調査に熱がこもった。 この調査の成果は分類目録としてまとめ、「岩国市立岩国学校教育資料館所蔵和古書分類目録―「教科書」資料の部―」として『内海文化研究紀要』第49号(2021年3月刊)に掲載した。ただし、調査では和綴教科書という基準で明治30年代までに刊行された教科書を対象としたが、目録では紙数等の関係で検定教科書を除くこととし、明治19年の教科書検定制度導入以前のものに限定した。検定教科書は専用の教科書として学年別に段階的に編集されているが、それ以前は、専用教科書以外にも、啓蒙書や翻訳書のような一般書が教科書として用いられていたため、近代の教科書とは異なり古典籍の範疇に入れることができるからである。目録には412点を掲載し、詳しい書誌情報を記した。
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