本研究では、旧鈔本を手がかりとしながら『梅花無尽蔵』諸本を調査し、七巻本の系統を明らかにした。多くの新たな知見を得たが、特に現存する最古の七巻本である杏雨書屋蔵本、二番目に古い蓬左文庫蔵本、およびこれと同じ系統に属する松ヶ岡文庫蔵本に関する研究は、斯界への貢献が大きなものである。また、『梅花無尽蔵』が一部の蒐集家に死蔵されていたわけではなく、江戸の地誌の成立に寄与したものがあったことを明らかにした。就中、榊原芳野旧蔵『梅花無尽蔵』が『江戸名所図会』の編纂に用いられたこと、塙保己一旧蔵『梅花無尽蔵』が勝海舟の有に帰し、『府城沿革』の編纂に用いられたことは、従来指摘がなかったことに属する。
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