平成30年度は、研究実施計画に基づき、山口鷺流の元祖・春日庄作の自筆台本のうち、未検討であった最後の曲目である「末広がり」について、大蔵流・和泉流のような他流台本、さらに鷺仁右衛門派台本、鷺伝右衛門派台本と比較することによって、その系統的位置付けを分析・考察した。その結果、「末広がり」は鷺伝右衛門派の特徴を備えており、特に江戸末期の鷺伝右衛門派台本である常磐松文庫本に近いこと、下関市長府に伝承された鷺流の台本である浜田本にも近似することが確認された。また、あわせて平成25年度から継続してきた春日庄作自筆本全体の分析のまとめをも行った。春日庄作自筆本は、基本的に鷺伝右衛門派の系統に属するが、部分的には、現存する(中央の)鷺伝右衛門派諸本とは必ずしも一致しない箇所が見出される曲も散見される。山口市に伝わる鷺流は長州藩鷺流を源流とするが、その長州藩狂言方であった春日庄作の伝えた狂言は、中央の鷺伝右衛門派を基盤としながら、部分的には長州藩独自の工夫を加えたものであったことが明らかとなった。以上の分析結果は、論文「山口鷺流台本の系統(七)―春日庄作自筆本をめぐって―」(『山口県立大学国際文化学部紀要』25号、2019年3月)としてまとめ、発表した。 なお、30年度には、春日庄作自筆の間狂言台本である『鷺流間書抜』(山口県立大学郷土文学資料センター所蔵)の翻刻作業を行った。さらにこれまで取り組んできた鷺流諸台本の分析結果は、論文「狂言「石神」の構想と演出―石神信仰との関連―」(『朱』〈伏見稲荷大社刊〉62号、2019年3月)にも生かされたことを付言する。
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