研究課題/領域番号 |
16K02373
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研究機関 | 大東文化大学 |
研究代表者 |
藏中 しのぶ 大東文化大学, 外国語学部, 教授 (40215041)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 鑑真 / 道セン / 菩提僊那 / 南総里見八犬伝 / 犬坂毛野 / 傀儡師 / 図像 / 賛 |
研究実績の概要 |
全国大学国語国文学会学会創立60周年記念大会シンポジウム「日本とインド-文明における固有と普遍」の講演「日本文化の源流としてのインド」で、天竺僧菩提僊那の伝『南天竺婆羅門僧正碑并序』の菩提僊那が弟子に託した遺言を分析、伝が第一の遺言の「阿弥陀浄土」の完成に沈黙するのは、同じ天平宝字四年(760)に崩御した光明皇太后のふたつの追善事業、①平面的二次元で阿弥陀画像を顕現した四十九日斎会、②立体的三次元の浄土庭園を造営した一周忌斎会が同趣旨であったため、官大寺である大安寺僧がこの事業に参画し、個人的な菩提僊那の遺言が発展的に吸収されたとみて、菩提僊那と光明皇后の造寺・造仏事業との深い関係を論じた。 「伝」と「肖像」の問題を日本文学史のうえで俯瞰するために、第8回「東西文化の融合」国際シンポジウム「傀儡子と観相(人相占い)の東西」で『南総里見八犬伝』巻六巻頭口絵を伝で絵解きし、犬坂毛野と女田楽旦開野の「伝」と「肖像」を分析した。第一に、口絵の漢詩賛は男姿の毛野、和歌賛は女姿の旦開野に対応し、本文中の伝を要約する。漢詩賛は、毛野の父粟飯原胤度の冤罪事件の伝記的な語り、①品七の昔物語、②毛野の犬田小文吾への告白、③小文吾の称讃に対応し、口絵の漢詩賛へと収斂されていく。第二に、役者絵的な口絵と説明的な挿絵が対応し、口絵枠の肖像群十九名が役者絵的趣向で千鳥に配され、下半部は十五年前の冤罪事件、上半部は対牛楼仇討ちの登場人物群である。第三に、女田楽旦開野は傀儡子で、巷間の傀儡師を題材にした竹田近江からくり「船弁慶」の意匠である。第四に、旦開野の肖像は第六輯刊行の三年前、文政七年江戸市村座で三代目坂東三津五郎初演した清元『傀儡師』の趣向で、続く演目「雀踊り」の雀を描く。第五に、口絵の兎は名詮自性で、冤罪の冤、籠山逸東太の逸、毛野を擬えた木兔に対応する。以上、本文・賛・図像の緊密な関係を論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
全国大学国語国文学会学会創立60周年記念大会シンポジウム「日本とインド-文明における固有と普遍」の講演「日本文化の源流としてのインド」をきっかけとして、インド・コルカタ総領事の招聘により、初めてインドを訪問し、講演を行った。これによって、従来、漢訳仏典を通して理解していた中国初期仏教の天竺・西域からの渡来僧や求法僧の伝、玄奘三蔵関連文献について、インドの視点を得、天竺なるものの捉え方が大きく変わった。 インドでは、初めて日本に渡来した菩提僊那に対する関心が非常に高い。鑑真は日中交流の象徴とされるが、菩提僊那は日印交流の象徴であることを知った。 菩提僊那伝について、正倉院文書と美術史研究の視点をもつという当初の研究計画の有効性を確認した。光明皇太后の追善事業との深い関係を前提とし、生前の光明皇后と菩提僊那との関係を再検討し、光明皇后の造寺・造仏事業を見直していく。 「伝」と「肖像」の問題は、広く日本文化、日中・日印の文化全体に波及する問題である。 特に、肖像は、禅の頂相、祖師像と賛、画賛の問題として追究する必要がある。江戸時代の読み本『南総里見八犬伝』巻頭口絵を分析したことは、日本文学史の問題として「伝」と「肖像」の問題をとらえ、後世への展開を視野に入れるうえで非常に有効であった。伝とその要約としての賛、文字化された伝と図像化された肖像の問題は、古代から近世への展望のなかで把握する意義がある。『南総里見八犬伝』の旦開野の肖像は、『平家物語』の平知盛の怨霊が延慶本、能・浄瑠璃を経て、傀儡子、竹田近江からくりに取り入れられ、『摂津名所図会』『東海道中膝栗毛』等に引かれ、さらに歌舞伎で長唄・河東節・清元の『傀儡師』として展開したものを図像化している。この大きな広がりによって、対象とする時代を後世に広げ、日本文化における伝と肖像の問題を考えていくための基盤と視座を構築することができた。
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今後の研究の推進方策 |
古代における「伝」と「肖像」の問題を、最初の事例である天平8年(七三六)に来朝した唐僧道センと天竺僧菩提僊那、また、天平勝宝五年(七五三)に来朝した鑑真のネットワークを軸として、造寺造仏に関わる正倉院文書、寺院関連文書から厳密に詰めていく。 伝と肖像の問題は、律令国家においては表面に現れてこない禅と密接に関わっている。史料が限られているとはいえ、正倉院文書と肖像・仏像等の仏教美術を視野にいれることによって、この問題は緻密に解明していくことが可能である。 また、後世の「伝」と「肖像」の問題を視野に入れ、通史的な観点を構築するために、画賛、禅における頂相、禅画、それらが掛軸として享受された茶の湯の場や江戸時代の版本の口絵・挿絵を視野に入れる。『南総里見八犬伝』『和漢朗詠集』版本の口絵や挿絵が、本文と緊密に対応して絵画化・図像化をはかっていることを視野に入れて、本文と図像の関係論を文学史の問題としてとらえ、今後の研究を推進していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、関西地区で予定していた研究協議と専門的知識の提供等の開催場所が、東京に変更になったため、出張旅費の支出が不要になったため。
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次年度使用額の使用計画 |
今後の研究協議の実施および専門的知識の提供に充当する。
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