研究課題/領域番号 |
16K02373
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研究機関 | 大東文化大学 |
研究代表者 |
藏中 しのぶ 大東文化大学, 外国語学部, 教授 (40215041)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 伝 / 像 / 碑 / 墓誌 / 賛 / 渡来僧 / 大安寺 / 版本挿絵 |
研究実績の概要 |
編著・古代文学と隣接諸学第2巻『古代の文化圏とネットワーク』は19名の協力を得て、多様な縦軸の継承関係論と横軸のネットワーク論を提示しえた。拙稿「氏族の伝・寺院の伝・国家の伝」では古代の伝の生成基盤とを大安寺文化圏以前の「寺院の伝」では高僧の「遺嘱」が重視されていることを論じた。 仏教文学会4月例会シンポジウム「奈良時代の高僧の「伝」と「肖像」―古代から中世へ―」は美術史・仏教学・歴史学との学際研究である。『道セン和上伝纂』に引く「道セン碑文」が碑文であることから、大安寺では15年間に『南天竺婆羅門僧正碑并序』『大安寺碑文』と三つの碑文が成立していたことに注目、この「賛」を備えた碑文体の「伝」と「肖像」の様式が空海撰「勤操讃」に、長安西明寺の出典群は「浄水寺南大門碑」に継承されて地方にも伝播していることを論じた。 和漢比較文学会第10回西安特別例会Session8「運命」では天竺・中国・日本の渡来僧の「伝」に共通する「運命」の伝記叙述を分析、予知夢は仏伝~玄奘伝~『延暦僧録』道セン伝、観相は仏伝~玄奘伝~敦煌出土「唐三蔵哭西天行記」という系譜をたどり、その論理と説話形成の構造を論じた。 第9回「東西文化の融合」国際シンポジウム「異類・妖怪と芸能の東西」は昨年度に引き続き、インド・カンボジア・中国・スウェーデン・フランス・イタリアとの共同研究である。『南総里見八犬伝』口絵の犬村角太郎・雛衣の「伝」「賛」「肖像」を分析、背後に外記節三部作『傀儡師』『外記猿』『石橋』があることを論じた。水門の会国際シンポジウム「季語の生成と四季意識ー東アジアから世界へ」では、版本挿絵における季語の画像化と『和漢朗詠集』による『類舩集』増補を検証した。 オレグ・プリミアーニと『南天竺婆羅門僧正碑并序』を英訳し、翻訳論出典論研究会を発足した。カンボジアの仏教遺跡を見学し、伝の画像化について新たな知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題の大安寺文化圏の内実に迫る次の成果があった。 第一に、8世紀末の大安寺三碑の成立という新たな知見は大きな成果である。第二に、大安寺三碑のうち、菩提僊那の「伝」『南天竺婆羅門僧正碑并序』はそれまでの日本にはない新たに唐から伝わった伝の様式「伝」「賛」「肖像」の三点セットである。この様式は空海撰『故僧正勤操大徳影讃并序』に継承されていることが確認された。第三に、「道セン」碑文、鑑真伝三部作は中国祖師伝の法統意識を継承していることが確認された。第四に、『南天竺婆羅門僧正碑并序』『大安寺碑文』の長安西明寺~大安寺文化圏の出典体系が、地方寺院「浄水寺南大門碑」に継承されており、想定以上に、大安寺文化圏の影響が大きいことが確認された。 次に、「肖像」について、仏教文学会例会シンポジウムでは鑑真和上像は臨終端坐の姿を模すという新たな知見を得た。 第六に、第9回「東西文化の融合」国際シンポジウム「異類・妖怪と芸能の東西」第1部「ヨーロッパの信仰と芸能」、第2部「アジアの信仰と芸能」では、インド・カンボジア・中国・フランス・イタリア・スウェーデンの研究者とともに、各国の伝承・説話と図像・芸能について国際共同研究を行った。さらに、昨年のインドに続き、カンボジアの仏教遺跡見学が実現し、「伝」の図像化の問題に大きな示唆を得た。 「肖像」彫刻のみならず、各国の説話や「伝」や芸能、これを複雑に継承した『南総里見八犬伝』『和漢朗詠集』をはじめとする文学の図像化・立体化の根底には、世界に共通する言語表現と図像表現、さらには芸能という本質的な問題がある。今後、国際共同研究を活性化するためにも、各国の多様な説話の図像表現、説話に関連する芸能等、海外の研究者の関心を吸い上げ視野を広げる必要性を感じた。 第七に、『南天竺婆羅門僧正碑并序』英訳を機に、国際的に翻訳論出典論研究会を発足し、翻訳に取り組む体制を確立した。
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今後の研究の推進方策 |
仏教文学会例会シンポジウムの成果は『仏教文学』42号に掲載予定、水門の会国際シンポジウムの成果は『水門』28号に掲載予定、第9回「東西文化の融合」国際シンポジウムの成果は武蔵野書院から刊行予定である。 第一に、大安寺三碑の特質が確認されたので、これをひとつの基準とし、従来の墓誌・墓碑・碑文の概念を再検討し、誄についても検討を加え、民俗学・文化人類学との学際研究により、葬送儀礼と「伝」の関係について調査を進める。第二に、大安寺三碑の新たな「伝」「賛」「肖像」の様式が、空海撰『故僧正勤操大徳影讃并序』にもみられることは重要である。碑文体の「伝」のみならず、寺碑『大安寺碑文』『薬師寺仏足石記』を基準としうる可能性を検証する。空海撰『沙門勝道歴山瑩珠碑』『益田池碑文』をはじめ、奈良末から平安初期の金石文を視野に入れて調査を進め、従来、空海将来の真言祖師伝が源流とされてきた「賛」の文学が、大安寺の碑文に溯る可能性を検証する。第三に、「道セン碑」と鑑真伝三部作が重視する中国祖師伝の法統系譜という観点から、最澄をはじめ天台系の文献を調査する。第四に、長安西明寺~大安寺文化圏の出典群の継承について、上記の文献の出典考証を行う。 第五に、天平期の「肖像」彫刻について、鑑真和上像・興福寺八部衆等の塑像彫刻群と大安寺様式・唐招提寺様式とよばれる檀像彫刻群について、正倉院文書を含めて調査を続行する。 第六に、「賛」の重要性が確認されたので、伝に付載される「賛」を再調査する。また、国際共同研究の参加者の要請に応えて時代とジャンルの幅を広げ、仏教美術・版本挿絵・禅画をはじめ、絵を伴う「画賛」や芸能の表現を視野に入れて、「賛」の国際シンポジウムを開催する。 第七に、翻訳論出典論研究会を基盤として、学術論文や『大安寺碑文』等、日本文学の翻訳、また各国の要請により、日本語教育の画像入り翻訳テキストの作成に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
教職課程再認可申請とこれに伴う学科カリキュラム改編のため、予定していた国際学会への参加、海外との共同研究会を断念せざるをえなかったため。昨年度の仏教文学会でシンポジウムは、学会誌『仏教文学』に論文化を予定している。今年度中に、海外との共同研究として、後期に国際シンポジウムの開催を予定している。あわせて、翻訳論出典論研究会で古代の伝にかかわる資料の翻訳を進める。、
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