研究課題/領域番号 |
16K02378
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研究機関 | 新潟経営大学 |
研究代表者 |
西澤 一光 新潟経営大学, 経営情報学部, 准教授 (30248885)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 契沖 / 万葉代匠記 / 「初稿本」から「精撰本」へ / 契沖の閲歴と思想の関連 / 契沖歌集『漫吟集類題』 / 契沖における知的革新 / 中国学と契沖の漢学 / 富士山百首 |
研究実績の概要 |
(1)フランス翻訳学会(SoFT)「日仏翻訳学研究」第4回研究会準備会(2018年11月15日~17日、京都工芸繊維大学、主催:京都工芸繊維大学・ジュリー・ブロック教授)において研究発表「ハイデガーと契沖における『生きた世界』としての文学の創造的な解釈」を行い、さらに、同学会第4回研究会(2019年3月15日~17日、京都工芸繊維大学、主催:ジュリー・ブロック教授)において世紀における「契沖解釈学の確立の意義をめぐって(第二部)」を行った。以上二つの発表において、契沖の『万葉集』研究が明確な「解釈学」の体系に基づいたものであり、西欧のルネサンスに相当する知的変革をもたらすものであったことを示した。また、「初稿本」から[精撰本]への展開の意味について新たな知見を示すことが出来た。 (2)契沖が『万葉代匠記』の「初稿本」を執筆するに至った知的な基盤を今までの研究以上に明確にするため、従来の研究史の洗い直しを行い、あわせて、中国学や東洋史学の専門家による契沖についての論考の読解を進めた。より具体的に言えば、契沖の伝記に関わる1次資料、2次資料の出所や信憑性について検討し、従来の典拠にはあいまいな部分が少なからずあることを発見した。契沖の思想形成にかかわる閲歴の記述を改めて行う準備を進めることができた。また、契沖の閲歴と思想の関連性を問うにあたっては、歌集『漫吟集類題』が極めて重要な意義をもつことを確認した。さらに、契沖の漢学についての識見について中国学、東洋史学の先賢より多くの知見を得ることが出来た。 (3)石田千尋氏(研究協力者)が論文「契沖の和歌―『詠富士山百首和歌』をめぐって―」(中央大学文学部紀要原稿)を公刊し、契沖の創作と思想について詳細に分析した。これにより、貴族に独占されてきた歌学が「地下(じげ)」と称される人々によって担われるようになった歴史的背景が明確に示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究年度の2年目の7月あたりから研究代表者・西澤の配偶者が重篤な病気に罹り、ほぼ1年にわたりその介護に携わったため、研究計画の2年目から3年目にかけての予定を推進することが困難になったため。また、研究協力者にも同様の事情があったため。 上記のほかに、従来、契沖の伝記テキストとして絶対的ともいえる信頼を置かれてきた久松潜一「契沖伝」(朝日新聞社版『契沖全集』第9巻所収)を検証する過程で、同書の記述に誤りや曖昧な点が少なからずあることが発見され、改めて、契沖の伝記資料についての検討を行わなければならないことになった。これは、必ずしもマイナスの影響ばかりではなく、契沖の伝記について、体系的に見直すための研究を進めることになったので、基礎的な知見を摘むことが出来たプラス面もあった。 もう一つ、予想以上に重要だったのは、契沖から宣長への影響の評価という問題であった。それは宣長著『排蘆小船(あしわけをぶね)』にもっとも顕著にあらわれているのであるが、近代以降の「国学」の歴史の記述がこのテキストの解釈を軸に成り立っていることが分かったことは、副次的な発見として大きいものだった。 以上のように、当該研究が「やや遅れている」という自己評価になる理由は、消極的理由と積極的な理由とがある。幸い、研究年度を1年延伸することが許可されたので、消極的な理由の方は解消されていくことと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)30年度に行った調査に基づき、契沖の閲歴についての体系的な見直しを行い、漢籍と仏典を包括した契沖の知的形成の基盤をより広汎に捉える体系を提示するとともに、契沖の「解釈学」がもたらした画期的な性格について総括的な議論をまとめたい。 (2)28年度から29年度にわたる継続テーマであるところの、『万葉代匠記』の「初稿本」から「精撰本」への展開をさらに具体的に調査し、契沖の「解釈学」の深化の実態を示したい。 (3)契沖の他の注釈のうち特に『勢語臆断』『源註拾遺』『古今余材抄』などの分析を進め、契沖の「解釈学」をより立体的に浮かび上がらせたい。 (4)契沖の創作(『漫吟集類題』)がその古典解釈と密接な関連を持つことが明らかになってきたので、上記の諸研究に『漫吟集類題』の読解を関連させていきたい。 (5)インターネット上への情報公開に力を入れたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
補助機関の2年目の途中から3年目にかけて、研究代表者・西澤が配偶者の介護に多くの時間を割いたので、ほぼ1年間研究活動が停滞せざるを得なかった。具体的には、学会、研究会への参加や古典籍の調査を実施することが出来なかったため。 本年度は、①『万葉代匠記』を中心とする契沖関連文献や契沖の閲歴文献など、その多くは写本の形で伝わる古典籍を閲覧するための出張費用、②研究協力者との研究会、③ウェブサイトへの研究成果の公表にかかる費用、④古典籍に関する識者と当該研究に関する内容について意見交換をしたり、識見を聴取するための費用、⑤研究のために必要な文献の購入費用等、当該研究に必要な範囲での使用を計画している。
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