『和漢朗詠集』の伝本については本文異同が大きく、諸本の系統が整理されていないが、本文異同の要因としては、伝本の多さに加えて、正確に書き写すという意識が低かったことにあると考えられる。書体の類似などの単純な誤写だけではなく、積極的な本文の改変や詩歌の増補を行ったと考えられる例が散見する。『和漢朗詠集』は、四季・雑の大きな分類の下に、細目を立てて詩歌を分類することなどから、作詩・作歌の手引きとしての役割を果たしていたとの指摘があるが、そのような性格から、完成された作品としてただ書写するのではなく、書写者がそれぞれの目的に合わせて改変しながら享受されてきたことが明らかになった。
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