研究課題/領域番号 |
16K02383
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研究機関 | 摂南大学 |
研究代表者 |
小川 豊生 摂南大学, 外国語学部, 教授 (50169190)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 儀礼 / 灌頂 / 中世醍醐寺 / 三宝院流 / 瑜祇灌頂 / 神道灌頂 |
研究実績の概要 |
初年度の研究として、1儀礼システムと書物の役割をめぐる総合研究、2灌頂儀礼における〈啓示のテキスト〉の生成をめぐる研究の二課題を遂行した。 1については本研究全体の前提として、前近代における宗教儀礼システムのなかで、書物がいかなる役割・機能を付与されていたか、その諸ケースを世界的な事例をも含めて考察、儀礼世界における書物の役割を俯瞰し、新たな「書物文化論」構築への導入とした。 2については、中世に最も隆盛した「灌頂儀礼」に焦点を絞って、そのシステムのなかで担った書物の役割と機能について具体的に解明。儀礼のうちとくに密教の灌頂儀礼および神道灌頂の儀礼を中心に取り上げ、そこで授与される聖なる書物の成り立ち、特定の密教流派において伝受された儀礼テキストの生成、および秘説内容の創造過程を検証した。なかんずく高野山大学図書館に多くを所蔵する瑜祇灌頂作法をめぐる諸文献(『瑜祇灌頂作法私記』、『灌頂口决・覚洞院口決』、『灌頂秘決』、『瑜祇灌頂口伝』等々)や、これまでの研究で収集整理してきた金沢文庫所蔵の関連テキストとを総合しつつ、「瑜祇灌頂」の秘説世界の解明につとめた。 とくに13世紀から14世紀にわたって生み出された当該の灌頂儀礼については、南北朝動乱のなかで文観―後醍醐の間で実施されたことが既研究によって明らかにされているが、いまだその儀礼の内容や、それに関わる秘教的テキストの生成については未解明の状態にある。本年度に達成した実績の中心に、この問題へのアプローチをあげることができる。 その成果については、2017年中に刊行予定の共著書(『日本における神秘主義の系譜』(仮題)森話社刊の第一章・第二章)において発表予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初から本年度については旅費の予算を少なめに配分していたものの、各文庫・図書館に赴いての資料調査に関しては計画を完遂することができなかった。研究に資する文献複写は、おもに諸文庫・図書館の検索システムによる遠隔発注による収集に頼り、当初予定していた金沢文庫、神宮文庫等への出張を実施することができなかった。それによって本年度の研究遂行にはとくに支障はなかったが、今後の研究計画の実施においては、各文庫・図書館への出張により、収集・調査の質を高めていく必要があるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
両部神道テキスト、伊勢神道テキスト、日吉山王テキスト、修験道関係テキストを中心に、儀礼と書物の連関の実態を究明する。「これまでに受けた研究費とその成果等」で記した偽書研究の蓄積を土台としてすめるが、その際には念頭になかった新たな視点から中世偽書論を再構築したい。とくに恵心流の口伝法門とテキストの制作プロセスの解明、とくに俊範・静明・政海・心賀・心聡・心栄・心源らの直談テキスト、『天台宗要類聚』、『夷希集』などの諸文献、『理趣経直談鈔』『十八道直談鈔』等の直談テキストの写本複写の収集を行う。それらの読解によって、中世天台における書物の観念を明らかにする。また、直談系テキストとともに見聞系テキストも特異なアプローチが可能である。『灌頂見聞集』一巻(高野山三宝院蔵、平安時代写)、『護摩見聞思記』二巻(来迎院如来蔵、長元九年〈一〇三六〉写)、『胎金見聞』二巻(西教寺正教蔵、寛永十九年宮内卿写)や、『玄義大綱見聞』、『業見聞抄』と外題された巻子一巻(青蓮院蔵、応徳元年〈一〇八四〉写、良祐筆)、成賢の『護摩見聞思記』一冊(宝菩提院三密蔵、平安時代写)などの文献について、詳細な調査・研究を実施したい。尊俊によれば、「見聞」の窮極の意義は、「遍く十法界の事を見聞」し、「諸法実相」という「幽旨」を念々に現前させること、すなわち「止観」の内実そのものを指していた。この「見聞」の特異な意義は、道元の『正法眼蔵』の中でもしばしば見出され、したがって「見聞」系テキストの生成そのものも、こうした止観実践の身体的境位から見直す必要がある。このほか、ここでは叡山文庫をはじめ天台系学僧都たちの思想的営為を掘り起こすことによって、さらなる書物観の深層に迫りたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度においては、予定していた文庫・図書館への出張による調査・収集が十分行えず、変わって文献複写の発注により収集を実施した。
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次年度使用額の使用計画 |
旅費として予定していたものについては、次年度の研究遂行のなかで果たしたい。
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