研究課題
基盤研究(C)
室町物語(お伽草子、中世小説、奈良絵本とも)は、室町時代を中心に15-17世紀にかけて作成された多数の短編小説を指す呼称である。室町物語は当時の知識・教養・文化を大いに踏まえて記されており資料的価値が高いが、作品群全体として捉えるとその研究はいまだ十分ではなく、作品の文化的・思想的背景を理解するためにも中世仏教的観点からの分析が求められている。本研究は、室町物語を仏教的観点から捉えることを目的とし、特に、輪廻転生、因縁、罪業観、霊験譚、経典の引用についての研究を行ったものである。
日本文学
中世文芸研究における仏教的観点の重要性は広く認識されており、室町物語群に対しても同様である。本研究で扱った中世寺院資料は、室町物語からはやや距離があるが、「本地物」と呼ばれる因縁譚や転生譚を中心に据える室町物語を適切に読み解く一助になると考える。また、室町物語に見られるような、現世の不遇を前世の因縁によるとする考え方は人に罪業観を持たせる可能性があるが現代にも存在し、その論理の歴史的検証は現代的課題とも言える。