昨年度から継続して現地発行の新聞、雑誌などにおける能狂言に関する資料収集を行った。また、収集した膨大な資料を整理、確認を行った。資料の整理と分析を通じて、戦前、台湾の能楽展開を支えた観世流、喜多流、宝生流の主な指導者の活動実態、台湾能謡界の形成や展開、能楽上演(日本から能楽師より公演、台湾現地の関係者の能楽上演)、能舞台の事情、流派と地域、女性の活躍、一人の人物が複数の役籍を担当するなどの、玄人の世界では容認されない上演のあり方が存したことなどを把握した。主な発表内容は次の通りである。 ①論文「桂六平と能楽雑誌『能海』―植民地台湾における能楽の一考察―」(王冬蘭)において、桂六平は一九〇二年から一九一六年まで、台湾の日本人社会で「能」を広め、台湾の能楽展開の先駆者だと言われる人物であり、本稿は桂六平の台湾能楽人生を辿り、台湾で能楽展開やその詳しい事情、当時の台湾能楽界における地位、影響等を明らかにした。当時の台湾における能楽の進展状況の一端を把握しようとまとめた。 ②論文「戦前、台湾における能楽」(王冬蘭)において、台湾能楽展開を前期と後期に分け、縦の視点で時代の流れに沿って、各時期の展開を見ながら、横の視点で各流の主な指導者の能楽展開の事情を追究し、台湾能謡界の形成、社中、各流の指導者、能楽上演、能舞台の建造、囃子事情等という具体的な課題の解明に基づいて、台湾における能楽展開の大体な筋道を明らかに、台湾能楽簡略史を描いた。
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