中世における役行者伝の正統化という汎宗派的現象を、それを撰述あるいは所持した顕密寺院の活動と論理に照らして解明、評価するという目的で、3年間研究を進めてきた。本年はその最終年度にあたる。 当初の計画では、最終年度は、研究成果の学術図書や学術雑誌への公表に重点を置く予定であったが、現状では、上記の議論が国際的に共有される方策を優先すべきだと判断してそちらに重点を移し、米国の大学で開催された国際研究会議、セミナー等で招待講演や研究発表を計3度行った。とりわけ、国際研究集会「灌頂の世界」(2019.5.7-8、カリフォルニア大学サンタバーバラ校)での発表と議論はきわめて有益で、どのような論理と方法で役行者伝の正統化が進められたのかを解明するための核心的なアイデアを得ることができた。すなわち、至聖の霊山である大峯で灌頂の儀礼が行われたのは南北朝時代以降であったが、平安時代後期から鎌倉時代後期にかけて、日本仏教の一道として修験から修験道が成立する過程で、修験の正統性を保証するために、修験が密教の付法・灌頂と連関あるいは連結することが、種々の論法でくりかえし主張された。そのひとつとして、平安時代以降、役行者の事績のいくつかがそれと深く関わると主張されたが、鎌倉時代後期までには、密教の付法・灌頂との連関・連結に関する主張のほとんどが、修験の祖師として崇拝されていた役行者の事績に結びつけられた。中世における役行者伝の正統化という現象の主な筋道は、以上のように説明できると考えた。 なお、上記国際研究集会の成果は、開催校の教授により英文の学術雑誌として米国で刊行される予定である。
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