研究課題/領域番号 |
16K02390
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研究機関 | 長野工業高等専門学校 |
研究代表者 |
小池 博明 長野工業高等専門学校, 一般科, 教授 (30321433)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 大江千里集 / 句題 / 和歌 / 表現 / なりけり / もの / 古今和歌集 / 拾遺和歌集 |
研究実績の概要 |
本年度は、これまでの科研費採択研究を承けて、助詞・助動詞・構文などから、特定の歌人の表現上の個性を明らかにする研究を行った。具体的には、千里集の表現研究である。その際、以前より表現学会において学的交流のあった半沢幹一氏(共立女子大学文芸学部教授)が、千里集の句題と和歌の関係に強い関心があることから、2人で1首ずつ注釈の形で研究を進めてはいかがかということとなった。そこで、本年度は、注釈を進めるに当たっての前提となる千里集の研究史(特に句題と和歌との関係を含めた表現に関わる論)をまとめるとともに、どのように注釈を行うかを話し合い、著名な「てりもせずくもりもはてぬ春の夜の朧月夜ぞめでたかりける」について、注釈のサンプルとしての意味合いも含めて、考察した。この研究は、本年度だけでなく継続して行う。 また、研究の実施計画としては平成31年度以降を予定していたが、これまでの科研費採択研究との関係から、古今集的表現を代表する「なりけり」構文、特に「……ものは、……なりけり」「……ものなりけり」について八代集を調査した。その結果、「なりけり」構文における「……ものは、……なりけり」の占める割合が、拾遺集でピークに達することがわかった。秋本守英氏によれば、古今集に多い「……名詞は、……名詞なりけり」は個別的体験による個別的表現であり、「……ものは、……なりけり」は、理法を個別的体験に基づいて、発見、解釈する形だという。とすれば、「なりけり」構文の表現に、通時的な展開を認めることができる。また、主題のない「……名詞なりけり」は、新古今集での割合が格段に高い。これは、新古今集に特徴的な体言止めに通じる構文である。これと、これまでの研究で体言止めとの関係が明らかになった助動詞「らむ」「まし」を句切れとする倒置的構成の歌とを糸口として、新古今集の体言止め歌についての考察を進めたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は大江千里集のデータベース作成とその分析を行う予定であった。しかし、大江千里集の研究が、句題との関係も含めた表現を中心とする注釈に進展したため、その準備に時間を割かれ、データベース作成には及ばなかった。データベースはできなかったが、研究としてはより詳細な表現分析を目指す注釈の計画化がなされた。また、当初の計画にはなかった、八代集の「なりけり」構文の分析も行った。これは平成31年度に行うものであったが、先に科研費に採択された研究との関係で、今年度調査と分析を行った。以上により、現在までの進捗状況を、上記のとおり判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究を承けて、また研究の実施計画と照らし合わせて、平成29年度は以下のように研究を推進する予定である。 1.大江千里集の注釈の継続と、文末表現に注目したデータベースの作成。 2.今年度、調査分析した「なりけり」構文(特に、「……ものは、……なりけり」「……ものなりけり」)の論文化。 3.実施計画にある初期定数歌のデータベース化。 平成30年度以降は、実施計画に基づいて進める。倒置法、体言止め、句切れ、第3句の体言を焦点化する鎖型構文などについて、古今集的表現を特徴付ける助動詞「らむ」「けり」などと関連づけて考察する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
大江千里集や漢詩文に関係する資料で、新たに購入しなければならないものが、想定より若干少なかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
来年度に研究を予定している、初期定数歌に関する資料の購入などに充てたい。
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