研究課題/領域番号 |
16K02390
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研究機関 | 長野工業高等専門学校 |
研究代表者 |
小池 博明 長野工業高等専門学校, 一般科, 教授 (30321433)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 和歌 / 八代集 / 大江千里集 / 表現 / 構文 / 句切れ / なりけり / もの |
研究実績の概要 |
本研究の柱の1つである、句末語、歌末語の表現性については、これまでに引き続き「なりけり」について考察し、以下を明らかにした。 1.「なりけり」歌で「もの」を含む類型に3種類がある。すなわち、類型Ⅰ「……は……ものなりけり」、類型Ⅱ「……ものは……なりけり」、類型Ⅲは「……は」という主題がなく、「もの」の上接句すべてが「もの」の連体修飾語となる「……ものなりけり」である。先行研究では、「もの」は普遍的理法性を示すとされる。類型Ⅰ・Ⅱ・Ⅲを合わせた用例数は、新古今集を除く二十巻からなる八代集では、多いものだと30例足らずあるのに、新古今集では7例しかない。新古今集は「なりけり」の用例数自体が少ないこともあるが、「ものなりけり」の形をとる類型Ⅰ・Ⅲは用例がない。こうした点に、古今集的表現の特色である理法への志向の後退を見て取ることができるだろう。 2.八代集における複数文構成の「なりけり」歌の文の連接の変遷について、以下を明らかにした。まず、連接の基調は、順接、逆接、解説という、論理を観点とする類型であった。また、それは、古今集の理知的な修辞を媒介とした。しかし、八代集を通時的に見れば、用例の僅少な金葉集の位置づけが問題として残るが、流れとしては、論理的連接である順接と逆接の減少、すなわち論理の弛緩を指摘することができる。特に、論理的連関の対極に位置づけられる転換連接は、千載集以降に多く見られた。こうした通時的傾向において、後撰集は例外的な位置づけがなされた。これは、おそらくこの集に多い贈答歌が影響していると予想される。 もう1つの柱である、千里集の表現研究(半沢幹一氏〔共立女子大学教授〕と共著)は、11番歌から18番歌の表現と句題との関係などについて詳細な注釈を付けるとともに、本集に特異な構文、本集唯一の体言止歌、本集の「なりけり」歌の構文上の特徴などについて明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、助詞・助動詞・構文・文章構成の観点から、和歌の表現を通時的、共時的に明らかにすることを目的とする。 通時的には、八代集の変遷を上記の観点から見ようとする。その際、古今集的表現に特徴的な句末・歌末の「けり」「らむ」を糸口にしようとした。「けり」は、「なりけり」歌について考察が進んだが、「らむ」をまだ取り上げていない。共時的観点からは、古今集前後の歌と大江千里集の比較、初期定数歌相互の比較を行う予定であった。前者については順調だが、後者をまだ取り上げていない。 しかし、「らむ」については、大江千里集の注釈の中で、通時的に考察する機会があった。また、初期定数歌については、データベース化が遅れていたが、本年度、その準備と試行を行った結果、当初予想していたよりも、早期の完成が見込まれた。 以上から、上記の区分と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究も、次年度(2020年度)が最終年度となる。 これまでの研究成果として、通時的視点からの八代集の変遷については、口頭発表や論文で何度か公表の機会を得た。また、共時的視点からの千里集の注釈(実際は通時的視点からの考察もなされているのだが)については順調に進み、5回分の注釈(1番歌から18番歌)を公表し、6回目の注釈(19番歌から23番歌)も入稿済みである。 したがって、当初の計画においてその成果を公表できていないのは、初期百首の比較である。そこで、次年度は早急にデータベースを作成し、それに基づいて影響関係が明らかにされている好忠・順・恵慶・重之それぞれの表現の個性を明らかにしたい。 現在はデータベース作成の試行段階である。データベースには、句切れ・句末語・歌末語・文の種類・なりけり構文などのデータを入力する予定である。今の段階では、成立の動機が他と異なる重之百首は、本研究の観点から見た表現においても、ほかの3つとは異なる性格を持つようである。好忠百首・順百首・恵慶百首は、表現上同様の傾向があるようだが、さらに他の観点や細部について比較する必要があるようだ。また、比較には基準が必要である。そこで、古今集について、この4つと同じデータを整理したデータベースを作成したい。すでに、本研究の前段階となる研究において、古今集のデータベースは作成しているので、それをもとにすれば、それほど時間と手間をかけずにできると予測される。 なお、本年度の成果を公表するに、口頭発表と論文が採択されていた国際学会などが、新型コロナウィルス感染防止のため、中止されるなどした。そのため、発表できなかった研究成果がある。こうしたものについては、なるべく早く成果を公表できる機会を得るように努めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
文献複写が例年になく少なく、そのぶん次年度使用額が生じた。次年度は、これまでの研究で遅れていた初期百首についての考察を行うので、その際、文献複写や書籍の購入が必要となるので、それに充てたい。
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