【研究期間全体】第一に、八代集における「なりけり」歌は、修辞を通して新しい発見や解釈を表現することを狙いとした古今的表現から、詞花集以後は「なりけり」歌が本来もつ内面的・述懐的性格が強くなる。この変化の根底には、古今的表現を支えた理知的発想そのものの変化がある。第二に、初期百首の歌末形式を古今集のそれと比較し、各百首の表現上の特徴を明らかにした。好忠・順・恵慶百首では、感動文が最多であるが、重之百首は感動文が最少である。これは、重之百首の成立の場が公的なものであったことが関係するだろう。また、初期百首は、聞き手への働きかけが弱い。第三に、大江千里集の1番歌から40番歌までの注釈(半沢幹一氏との共著)を行うとともに、家集全体も射程に入れて、句題と和歌との関係、語彙的特徴、構文的特徴、表現の特徴などを明らかにした。 【本年度】第一に、句切れのある「なりけり」歌を、八代集から取り上げて、文の連接関係の史的展開について考察した。その結果、八代集の連接の基調は、順接、逆接、解説という、論理を観点とする連接の類型であった。ただし、通時的には、詞花集以降に因果関係による論理性の弛緩が見られる。特に、新古今集では、題述構文から外れる用例が比較的多く見られた。ここに、新古今集に特徴的な、各文(句)の、独立性が強く不即不離な関係の一端が見られる。第二に、大江千里集の表現の特徴として、「AはBなりけり」の主題「A」に古今集との比較で、連体形や抽象名詞が多いことが挙げられる。これは、句題の規制による。千里集の注釈(半沢幹一氏との共著)は、24番歌から40番歌に注釈を付すとともに、句題と和歌との関係や、表現上の特徴(「なりゆけば」「しづけし」などが好んで使用されるなど)、構文上の特徴(古今的表現の典型である「……ば……けり」が、古今集よりも高い割合で使用されるなど)について明らかにした。
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