最終の本年度は、三十六歌仙絵における書の課題につき、昨年度までの成果を踏まえ、より広範に諸本の書式を調査し、世尊寺家・持明院家を中心とする入木道伝書の言説と対照させ、絵の有無と書式の相関を明らかにした。典型をなす例は、散らし書きのうち左から右へ行を連ねる左書きであり、その由来と歌仙絵書式の多様化に果たす役割の大きさを検証する一方、それが書作品における書法の深化をもたらしたことを導いた。 次に、三十六歌仙絵における歌の課題につき、調査した諸本の多様な実態の比較・検討を通して、選歌の方法を考察し、原則を導いた。今日有力な所収歌における六系統説を踏まえ、異同の精査から、類型は基本的に典拠が『三十六人撰』と『俊成三十六人歌合』のいずれかを踏まえる二つに大別されることを明らかにし、把握し得た諸本の系統を整理した。 上記の作業を踏まえ、他の諸作とは性格を異にする業兼本三十六歌仙絵の和歌につき、各歌の選歌の実態を検討することから、編集が時代不同歌合に認められる歌合形式の左右両歌の相関の原理を踏襲した結果であることを解明し、その理由を推測した。 研究期間全体を通じて実施した研究成果は、歌仙絵における歌と絵と書の相関につき、主要課題とした書の面からの闡明化を果たしたことである。書における絵との関係では、歌仙絵作品と書作品の両者の展開を踏まえ、それらを比較・検討する手法により、歌仙絵の意匠の創意が追求される経緯を推考した。それを踏まえて、絵と歌との関わりにおける課題に再検討を加えた。具体的に、三十六歌仙絵と時代不同歌合絵との先後関係につき、絵の面で造型の主流となる業兼本三十六歌仙絵を検討し、歌の面でも時代不同歌合の原理を踏まえた左右相関を基本的な性格とすることを導いた。左右相関の意識が固有の書式を生み出したことと併せ、歌と絵と書からなる歌仙絵作品に果たす業兼本の意味を問い直した。
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