本研究は、当初、2018年度までの3年間の計画であったが、研究代表者の所属機関の異動に伴って生じた研究環境の大幅な変化に対応するため、1年間の延長を申請した。前年2018年度までの状況についてはすでに報告してある通りである。
本年度は、一時延期せざるをえなかった期間の研究を再開し、また、必要な実施期間を確保できなかった海外研究調査(2017年夏実施)の不足を補うために、ドイツ・ベルリン州立図書館(Staatsbibliothek zu Berlin)での継続調査を夏期に実施した。その結果をもとに、本研究課題の中心となる成果を研究論文「鴎外における博物館改革の素地―ある博物館人をめぐって―」にまとめ、査読付き研究雑誌に投稿、掲載することができた。
具体的には、帝室博物館総長に就任したばかりの森鴎外による歴史的改革3点(①時代別展示の導入、②「帝室博物館学報」など報告書・目録類など出版活動の増大、③正倉院宝物観覧の一般研究者への開放)が、いずれも同時代ドイツの先進的事例に対する長期的な関心と広範な情報収集のうえにはじめて成り立ったものであることを、海外情報紹介記事「椋鳥通信」および鴎外周辺の事象、ベルリン州立図書館所蔵文献、東京国立博物館所蔵文献を照合することを通じて詳らかにした。従来、鴎外による上記3点の主要改革は、国内の、遊就館整理事業や、新聞などに掲載された文化人の意見書などとの関りの中で捉えられてきていたが、海外の先進的モデルを参照した痕跡を掘り起こすことで、具体的な影響関係と特質に言及した。ドイツの世界的成功事例に学びつつも、日本独自の状況と特質を最大限に活用した改革の価値とこれを力強く主導した鴎外の行政上の業績の一端を明らかにしたものである。
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