研究課題/領域番号 |
16K02397
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
馬場 美佳 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (90405548)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 日本近代文学 / 明治文学 / 森田思軒 / 翻訳 / 新聞 / 植民地 |
研究実績の概要 |
交付申請書に記載した項目ごとに研究実績の概要を報告する。 (1)森田思軒訳『郵便報知新聞』掲載の作品の原著の解明―継続して行っている基礎調査については、書籍・雑誌・新聞記事をふくめ、それぞれからさらに原著を発見し追加することができた。想定外であったことは、思軒は完訳を行っているとされ、本調査でも同様の傾向を確認してきたが、最も初期の原著不明作については、複数の外国作品を編集したものであることが判明した。これにより調査の方向性がさらに多岐にわたるものとなった。 (2)国際的視野に立った森田思軒訳『郵便報知新聞』掲載の新聞小説/翻訳小説の位置づけ―思軒が訳出した新聞記事を原著とする小説が、イギリスを主とした国のどのような背景において書かれたもので、その後どのような媒体に転載されていったかについての調査は、国際的な新聞小説研究を鑑み、背景に英米を中心とした国際的な小説配給会社との関わりを検討した。しかし、それには該当せず複数の国や媒体による無断掲載・無断翻訳といった19世紀的慣習が問題になることがわかった。宗主国発信の記事/小説が植民地へと形をかえて伝播する際、各国の新聞における小説の扱い方、さらには編集方針などの個別性もあり、編集という文化的行為の多様性の中で、思軒の翻訳行為の再考が必要になることが明らかになった。 (3)国内における森田思軒訳『郵便報知新聞』掲載の新聞小説/翻訳小説の目的の解明―思軒らが編集する『郵便報知新聞』が、欧化主義的な時代を背景に、総合新聞ではなく、むしろ海外事情に特化し、読者を限定する傾向をもった新聞として再出発をはかろうとしていたことが、原著不明作品群の問題を引き起こしていた。それは新聞記事と続き物が渾然一体とした明治初期の紙面作りとも、近代以降主流になる新聞における小説欄の独立という方向性とも異なる、新聞改良期固有の志向であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)海外での調査のための事前準備の進捗状況ー海外調査の視野をより広くもつため、継続して19世紀後半のイギリスを中心とした新聞研究および定期刊行物研究に関する国内・外における研究を継続的に精読して行うことができている。 (2)海外での調査および資料の分析に関する進捗状況―本年度は、海外調査を1度、約1ヶ月間行った。とくにフランスおよびイギリスの国立図書館において、原著不明作群の継続調査を行い、新たに欧米を中心とした短篇の物語・小説の作家たちの動きと、その物語内容の国際的伝播にかかわる状況について、文献調査を行った。19世紀に生じた国際的な文学状況がもつダイナミズムに日本がどのように参画しているかを徐々に明らかにしてきている。 (3)成果の発信に関する進捗状況―研究会にて、これまでに行った調査方法および途中経過について報告を行った。同じく調査方法と思軒と国際的な書籍・雑誌・新聞の流通状況を分析した論文を学会誌に投稿した。また、個別の作品毎の状況を報告する論文についても、現在執筆中である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策について、基本的に、申請書に記載した予定にそって、調査および報告を進める。 (1)海外での調査のための事前準備―海外調査の視野をより広くもつため、継続して19世紀後半のイギリスを中心とした新聞研究および定期刊行物研究に関する国内・外における研究を継続的に精読していく。今年度は、アメリカにおける新聞および定期刊行物掲載の文学作品の流通経路研究に関心を広げ、日本の状況の19世紀的状況との同時性と独自性を考えていく予定である。 (2)海外での調査および資料の分析―引き続き大英図書館にて調査を行う。期間は、1~2週間程の調査を、昨年度よりも増やし、2~3回できればと考えている。また調査対象の作品によってイギリス以外のヨーロッパ圏の文献調査を追加するつもりである。海外調査と同時に、『郵便報知新聞』の紙面(他の記事)との連動性が時期によって濃淡があるため、とくに初期の傾向に絞って、紙面全体と思軒訳との関連を分析していく作業を進めていきたい。 (3)成果の発信―現在執筆中の、思軒訳作品と、定期刊行物および新聞の国際的関係に関する論文を完成させ発表する。そのほか、新たに発見した事実に基づいて、随時学会誌および紀要等に報告、論文を掲載していきたい。 (追加調査)これまでの調査方法に基づき、思軒と同時代の翻訳家にしてジャーナリストである黒岩涙香の原著不明作品群についても順次調査を進めていく。明治20年前後の新聞と小説の関係の改良期(改革期)の状況について、複数の文学者の試みとして拡大して把握することができないか、可能性を模索していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
年2回、各2週間を予定していた海外調査を、今年度は1回の渡航で約1ヶ月実施した結果、1回渡航分の交通費を次年度に使用することとなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
予定通り、旅費として使用する計画である。特に、当初の大英図書館における海外調査に加え、ヨーロッパ周辺諸国での調査の必要が生じたため、その旅費として使用したいと考えている。
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