交付申請書に記載した項目ごとに研究実績の概要を報告する。 (1)森田思軒訳『郵便報知新聞』掲載の作品の原著の解明―本年度は、過去の調査で判明した原著不明の作品について、各国の新聞データベースの進展をみすえ、改めて再調査し、成果の精度をあげた。そのうち「女旅客」についての成果を『比較文学』に投稿し採択された。一方、昨年度発見した『印度太子舎摩物語』とウージェーヌ・シューおよびジュール・ヴェルヌとの関連については、今少し調査が必要となり、次の課題に引き継ぎ論文を完成させることとした。 (2)国際的視野における森田思軒訳『郵便報知新聞』掲載の新聞小説/翻訳小説の位置づけ―本年度は海外調査をフランス(パリ)及びイタリア(ローマ)の各国立図書館で行った。フランスでは思軒が訳した「女旅客」の素材について歴史的視座(フランス革命と移動の時代など)を得、上記投稿論文に反映させた。またイタリアでは思軒他著『西洋風俗記』(明治19年)にみえる『郵便報知新聞』の編集についてイタリアの新聞を参考にしたとの記述を検討し、紙面構成の類似性を見出すことができた。 (3)国内における森田思軒訳『郵便報知新聞』掲載の新聞小説/翻訳小説の目的の解明―本年度より笠岡市立図書館における思軒関連書簡の調査を追加した。報知社関連の書簡が多々含まれており、これまでの研究を新聞編集の問題として改めて捉え直す必要性に気づくことができた。二千通に及ぶ書簡の本格的な内容解明は次の課題に引き継ぐこととした。 この三年間のなかで、思軒の原著不明作調査にとどまらず、その経緯をめぐる歴史的・国際的背景の解明にまで拡張する研究を行い、近代文学・比較文学を代表する学会において成果を公表することができた。今後は、新聞と文学の親密な関係を生きた明治期文学者について、文学者にして編集者という側面から、その文化的・芸術的営みの意義を再考していきたい。
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