本研究は近世中期に刊行された初期草双紙を中心に、近世期全般及び近代へのつながりを視野に入れつつ、庶民層が安価で手に入れやすかった印刷物であった草双紙の中で表現されている内容を、絵と言葉の補完的表現方法の解析を通してその意味と効果について分析検討し、明らかにした。 平成28年度は5つの初期草双紙(黒本・青本)と1つの合巻についての研究、さらに、小学校における古典教材の可能性を探るための教材開発としての研究も行った。平成29年度は2つの初期草双紙(黒本)と2つの黄表紙、さらに2つの合巻について研究し、加えて前年度より引き続き、小学校における古典教材開発の可能性をさぐるための教材活用の研究を行った。平成30年度は6つの初期草双紙(黒本・青本)と草双紙形態の噺本1つ、合巻2つについての研究と、昨年に引き続き小学校における古典教材開発としての研究を行った。 いずれの研究も各作品の書誌調査、翻刻、注釈等を行って作品の内容についての分析と作品としての特色について考察をしているが、その際、絵と言葉との補完的関係について分析し、その意義と効果について詳細に検討を加えている。近世以前から継承されて来た種々の文化的要素がどのような形で視覚化され、作品創造の上で新たな効果を挙げているのか。またそれらがどのように享受されたのか。それによって生じる変化は何かについて明らかにすることができた。 さらに、小学校から古典に触れる機会を作る上で、初期草双紙が一つの有効性を持つ可能性が高いことを、教育現場で初期草双紙を活用した教材を開発、実践することを通して、その意義を実証できたことは、当初の予想を超えた大きな成果を挙げることにつながった。
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