研究課題/領域番号 |
16K02400
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
大木 志門 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (00726424)
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研究分担者 |
掛野 剛史 埼玉学園大学, 人間学部, 准教授 (00453465)
高橋 孝次 帝京平成大学, 現代ライフ学部, 助教 (20571623)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 文学一般 / 水上勉 / 日本近代文学 / 文壇 / 戦後文学 / 自筆資料 / 書簡 / 原稿 |
研究実績の概要 |
本年度は研究の2年目であり、前年度に行った基礎的作業をもとにして、主に研究の具体化となるような活動を行った。前年度よりも現地調査の回数を増やし、長野県東御市の水上勉旧居への調査を平成29年5月、7月(2回)、9月、11月の5回にわたって実施した。本年度は、昭和30年代以降の資料を時代と分類ごとに整理し並べ直し、一点ごとに撮影と調書作成を行った。さらに現地で調査した結果を持ち帰り、データ入力して資料リスト作成を行った。この結果、本年度はあらたに約400点の、前年度までの調査分と合わせて約1,400点以上の資料のデータ化が完了した。なお、前年度調査分より項目の点数としては少ないが、今年度は1点あたりの枚数の多い原稿類の調査を中心的に行ったため、整理・撮影を完了した資料の全体量は前年度よりかなり多いものとなった。 以上により、水上勉の本格的な文壇活動期にあたる昭和30年代から40年代にかけての文学的活動の詳細を知ることができる多くの資料が発見された。特に異稿を含む代表作の草稿類が多数見つかり、次年度以降に発展的な調査および結果報告を行うための目途をつけることができた。 また、平成30年2月には、水上の出生地である福井県おおい町で水上が自ら設立した若州一滴文庫における資料調査、さらに福井県立ふるさと文学館での資料調査を行い、福井県内における主要な水上資料の存在を確認することができた。また、おおい町では生家跡や分教場跡などゆかりの場所を調査し、その正確な場所や現状を確認することができた。 次年度以降は、さらにいっそう資料調査を進めるとともに、書簡・原稿とも翻刻作業を進め、同時に周辺事項の調査を行うことで、資料の学術的意義や、位置付けを考察してゆく予定である。資料の全体像を明らかにし、その概要を積極的に公開してゆくことで、本資料群が有する多岐にわたる研究上の可能性を引き出すことに努めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、これまで、その調査対象としている水上勉資料の所蔵者である水上勉遺族との協力関係のもとに研究活動を進めてきた。本年度もまた同者との関係を良好に保ち、全面的に協力してもらうことで研究活動を継続することができた。その結果、調査回数を増やし、資料全体の中から内容的に重要度が高いと思われた資料(水上の文壇活躍初期の資料)、特に草稿類を優先的に調査し、分量的にも当初の計画通りの資料の整理・撮影および調査を行うことができた。調査資料のデータ入力についても年度内には概ねその作業を終えた。 これまでに調査を終えてデータ化した資料点数は1,400点を超え、想定していた以上の重要な資料を多数発見することができた。特に今年度は草稿類を中心に多くの点数を調査、データ化できたこともあり、原稿から看取できる作家の具体的な創作活動のあり方を検討してゆく基盤を形成することができた。それら成果の公表については端緒についたところであるが、今年度はその手始めとして宛書簡の一部を翻刻してその解説とともに学会誌に発表するとともに、資料と関わる時代の作家を知る関係者からの聞き取りを行い、その結果を論文として公表することができた。 これまでに調査を行った資料のうち、一部の資料の翻刻や解析が終了し、次年度以降によりいっそうの成果公表を行うことができる基盤を充分に整えることができ、また各地の関係者と打ち合わせを行ない今後の成果公開の可能性を探ることができた点からも、今年度の研究課題の達成度を、上記の結果のように評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題がその研究の対象としている水上勉旧蔵資料には、5,000点を越える資料が所蔵されている。当該資料の整理・撮影・データ化の作業は昭和30年代までの資料(特に原稿類)がおおむね完成し、平成31年度は残った昭和30年代後半以降の資料(特に書簡類)と昭和40年代以降の資料を対象に整理・撮影・データ化を進める計画である。当初見込んでいた以上に膨大な、かつ重要な資料が存在するため、前年同様出張調査の回数を確保して多くの資料を調査し、データ化を推進する予定である。 なお、本年度に整理・撮影・データ化した書簡のうち、水上勉宛の書簡については翻刻・解析作業が少しずつ進行しており、その一部についてはすでに学会誌での発表を行った。今後も水上との関係や戦後文壇の問題を考察するにあたり重要と思われる文学者や文化人の書簡を優先的に翻刻・解析作業を進め、その成果を公表してゆく計画である。これにより、引き続き水上勉を中心とした作家たちの人的ネットワークを把握するとともに、戦後文壇の形成や広がりなどを検討してゆきたい。また、30年度は資料の中核をなす小説作品を中心とした草稿類の調査が進んだことを受け、それらの翻刻・解析作業を進めてゆく計画である。生成論的なアプローチから、作家の創作の過程を明らかにしてゆきたいと考えている。 また、調査の過程において文壇出発期の水上を知る人物たちが複数存命であることがわかり、ここまでそれら関係者から聞き取り調査を行うとともに、関連する土地の現地調査を行ってきた。今後もこれらの活動を積極的に継続する予定であり、またその結果の公表についてもすでに準備をおこなっているところである。 これらの多方面からのアプローチから、研究の3年間のひとまずの締めくくりとして、資料調査の結果を総合的な作家研究に結びつけることができるよう準備を進める計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額として残った金額は物品費等の誤差であり、次年度の物品費とあわせて厳密に執行する計画である。
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