研究課題/領域番号 |
16K02405
|
研究機関 | 二松學舍大學 |
研究代表者 |
中谷 いずみ 二松學舍大學, 文学部, 准教授 (10366544)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 戦争の記憶 / ホモエロティシズム / 戦後処理 / 戦争体験 |
研究実績の概要 |
本年度は、1960年前後の青年を描いた大江健三郎の長編小説「われらの時代」を通して、在日朝鮮人青年に割り当てられた戦争の記憶語りとホモエロティックな表象が果たす役割について、分析を行った。そのうえで、同時代の「怒れる若者たち」言説や戦争体験語りを、世代で区分しようとする言説の流通を調査し、小説テクストと同時代言説の交錯する地点の考察を行った。それによって、戦争と自らを切り離して語り得る者/語り得ない者という表象上の差異が、1960年前後の戦後処理の問題に通底するものであることを浮かび上がらせることができた。 これらの調査分析から見えてきたのは、1960年前後の大江健三郎や石原慎太郎らの「怒れる若者」論が内包する政治運動に対する絶望感や命をかける対象を持ち得ないことへの焦燥感が、歴史と切断された地点に足場を置くことで可能になっているという点である。大江らは「戦争体験」を共有する年長世代への違和感を示しつつ、自分たち若者世代を「停滞」する世代として語るが、こうした語りは過去や未来との切断を強調することで、戦後処理/戦後責任という同時代で進行しているはずの問題をも覆い隠す。また、日本のファシズム形成の追及に大きく貢献した同時期の橋川文三等の「戦争体験」論も、「日本の思想伝統」の中に「歴史意識」の創出を見ようとする点で、他者との回路を閉じたものとなっている。 このようにみていくと、両者ともこの時期に戦争責任/戦後処理の対象として存在し続けていたはずの他者を不在にするかたちで「戦争体験」を問題化していることが分かる。これらのことから「戦争責任」をめぐる問題と戦争の集団的記憶の編成との関わりについて調査分析する必要性がより明瞭に見えてきた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
勤務先の変更とそれに伴う教育・校務量の増加により、調査研究に配分できる時間が予定よりも少なくなってしまったため。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの成果を踏まえつつ、引き続き戦争の記憶をめぐる文学/表象とジェンダー・セクシュアリティについて、調査研究を進める予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
調査のための複写代として確保していたが、時間がとれず使用できなかったため。次年度使用する予定である。
|