研究課題/領域番号 |
16K02406
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
田中 則雄 島根大学, 法文学部, 教授 (00252891)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 実録 / 近世小説 |
研究実績の概要 |
論文「実録「伯州米子の城下敵討の事」について」を公表した。この実録は、近世初期(1600-1609)のみに存在した伯耆国米子藩中村氏に関するもので、同氏の歴史を根底に置きながら仮構の話と関連づけて成ったものである。 後半部分は、中村氏断絶の過程で非業の死を遂げた甘利三郎左衛門なる忠義の臣を設定し、その子三郎四郎が艱難の末に敵討を成就するという話としている。なおこの敵討譚においては、忠義の士の非業の死、遺された者たちの艱難、仏神の加護と思しき援助者の出現、武術鍛錬、家来の献身的忠義等々あって敵討に至るとしており、敵討もの実録の定型に沿って構想したものと解される。続いて、甘利三郎左衛門とその敵は、互いに前生からの宿敵であったとするのは、小説的構想に一段踏み込んだものと言える。 この実録において重要であるのは、藩主中村忠一が徳川家康・秀忠から厚遇されていたこと、若年の忠一が米子へ入封するが僅か9年で終わったこと、忠一の最期が頓死であったこと、断絶後の財産管理に問題のあったことなどの史実を踏まえながら、忠一の滅亡・中村家断絶の具体的経緯に関して虚構を設けている点である。作者は、米子藩中村氏の時代とはいかなるものであったのかを捉え直した上で、一つの別伝として読まれることを意図して本作を執筆したものと推定する。 この実録は、東京都立中央図書館蔵の写本『報仇記談』に収められる一編で、全45丁から成る。『報仇記談』は、伊賀越敵討、勢州亀山敵討など全国的に知られた実録のほかに、当「伯州米子の城下敵討の事」のような地方の実録をも収める。このような実録の叢書的写本がこの他にも存在し、それらの中に地方実録が収められていることを当年度の調査において把握した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
地方の事件を素材とし、当該の地に関わる実説に通じている作者によって制作されたと考えられる実録を新たに見出し、史実と対比しつつ、実録の特質が表れている部分を解明し、論文化した。 また実録の叢書的写本の中に地方実録が収められていることを把握し、諸本の対比などを通じてその成立過程を考察する作業に入ることができた。 これらは何れも当初の研究計画の段階から主たる目的と設定していた内容のものである。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画において設定した通りの方法によって今後も研究を行う。寛延期姫路騒動の実録の成立過程に関する研究をはじめ、個々の地方実録に即して考察を進める。その一方で、地方実録の全体像を把握するため、伝本調査についても継続して行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当年度行った調査の結果、研究対象の候補となる実録書目の把握が進展した。その結果に基づき、次年度は資料収集により多くの経費が必要になることが見込まれるため、その支出に備えることとした。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度の調査結果に基づき、研究対象の候補となる実録について複写等による資料収集を行う。
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