研究課題/領域番号 |
16K02406
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
田中 則雄 島根大学, 法文学部, 教授 (00252891)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 近世小説 / 実録 |
研究実績の概要 |
姫路騒動(寛延4年(1751)7月、姫路藩酒井家の家老川合勘解由左衛門が、2人の家老を討ち果たして自害した事件)の実録に関して、その生成と展開の様相を解明した。従来から『姫陽陰語』なる実録が知られているが、事件直後に原初的な形態の実録が作られ、そこから『姫陽陰語』として3つの系統に分かれ、更にそのそれぞれに対して増補が行われたということを推定した。その増補は、川合と2人の家老との対立の構図をより明確化し、事件発生の要因についてより合理的に説明するという見地からなされていることを明らかにした。 また同じ事件を素材とする『忠臣川合実記』なる実録の存在を指摘し、前掲『姫陽陰語』との異同を解明した。当実録には、姫路の地名・伝承、寛延元年(1748)の大一揆などの記述が見られ、地元で作られたものと解される。かつその文章は、『姫陽陰語』に直接依拠せず独自に書かれたものと認め得る。そしてそこには、川合と2人の家老との対立の背景には、当時の姫路藩における領民統治のあり方に関わる問題があったとする独自の観点が提示されている。即ち、単に事件の経緯を叙述するものではなく、一種の社会的観点から事件を捉え、それを人物の言動を通して描き上げるという方法が認められるのであり、このことは実録のあり方の一例として重要なものであると考えられる。 また事件直後における情報の拡がり、巷説の発生、そこから実録が生成する経緯についても資料によって跡付けた。以上によって、姫路騒動実録に即して、地方において実録が生成し展開していくあり方を解明した。(以上、日本近世文学会秋季大会・研究発表「姫路騒動実録の生成と展開」) 出雲国母里藩において、明和3年(1766)に起こった藩主後継をめぐる御家騒動に関する実録『雲州橘之巻』の特質について記述し、当実録の伝本(島根大学附属図書館蔵本)を翻刻した。(以上、論文「『雲州橘之巻』について」)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
姫路騒動実録の生成と展開について解明し、日本近世文学会において研究発表を行った。この研究において、史料と関連付けながら、実録の生成過程、更には展開過程を跡付けることができたのは、本課題研究の目的に沿うものであると考える。 また実録の本文の分析に拠って系統を整理し、それぞれにおける共通性と特異性について論究することができた。 以上、地方実録の生成と展開の様相を通じて、実録という近世小説ジャンルそのものの特質について検討することができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
当年度の研究の結果、研究方法の妥当性が確認できたと考えるので、今後は更に資料を収集して、別の事例についても検証を重ねる。即ち、実録本文の分析、関連する史料との対比によって、地方において実録が作られ継承されていく過程を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当年度の研究方法を次年度も継続して行うに際し、収集対象資料の点数が多くなることが予測されることから、マイクロ資料の複写費等を確保しておくことが必要と考える。
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