研究課題/領域番号 |
16K02406
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
田中 則雄 島根大学, 学術研究院人文社会科学系, 教授 (00252891)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 地方実録 / 実録 / 読本 / 近世小説 |
研究実績の概要 |
著書『読本論考』(汲古書院、2019年6月刊)において、地方実録に関する論を公表した。出雲国の敵討実録(木地谷敵討実録)について、新たに可部屋集成館本の調査を行い、増補を経た系統の本文をもつ本であることを論中に記述した。なお、実録の他ジャンルへの影響という観点から、実録『敵討氷雪心緒録』が、読本『再開高臺梅』(かえりざきこうづのうめ、栗杖亭鬼卵作、文化14年(1817)刊)の典拠となっていることを指摘し、その読本様式への変容について分析した論を書き下ろしで収録した(「栗杖亭鬼卵の読本と実録」第4、5節)。 また、松江藩士による敵討事件を記す実録『宝武実情記』の存在を指摘し、その前半部分を翻刻公表した。この実録の伝本は、翻刻の底本とした国文学研究資料館本のほか、新潟県胎内市黒川地区公民館本を知るのみである。宝暦12年(1762)5月、村本左仲太が早川源蔵に討たれ、その弟左源次が敵討を志し、美作国勝山で源蔵を見出すも、卑劣な手段で返り討ちに遭い、横死した兄弟の父村本九右衛門の友人瀬村覚右衛門は、既に亡き左源次を敢えて養子とし九右衛門から貰い受けたとした上で、敵の行方を求めて諸国を廻り、終に石州津和野で源蔵を見出し、決闘の末討ち取るという話である。敵の人物が、出奔の後他国で剣術師範として仕官し、それを見出して周囲の協力のもと討ち取るとなっているのは、敵討実録に頻出する型であり、全般にわたって虚構性が強い。しかしながら、地元の地名の用い方などには実態に沿った部分が認められ、地元人かそれに近い関係者が成立に関与している可能性があると認める。その詳細について次年度調査を継続する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年6月、著書『読本論考』を刊行し、本研究課題による論を、書き下ろしも含めて公表した。また、新資料を発見し、その翻刻(前半部分)を公表し、特質について考察した。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度において、阿波騒動に関する実録など、本研究課題に関する資料のうち収集を進められたものがある。これらを論文化して公表するとともに、地方実録の生成のあり方に関して、研究期間全体の成果を顧みて、その特質を総括し、今後発展的に探究すべき課題についても整理する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当年度終盤において出張が制限される状況となったため、当初予定していた資料調査を次年度に延期することとした。また、次年度は最終年度にあたるため、研究全体を総括する趣旨の論文を作成する必要がある。その中で、追加調査が不可欠となることが見込まれることから、旅費等を確保しておくことが必要であると判断した。
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