研究課題/領域番号 |
16K02408
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研究機関 | 福岡教育大学 |
研究代表者 |
菊池 庸介 福岡教育大学, 教育学部, 教授 (30515838)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 近世実録 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、未発掘の実録写本の調査を中心に行った。当初予定していた東北地区の調査は日程調整の都合上、次年度以降に実施することとして、今年度は国立国会図書館、国立公文書館、宮内庁書陵部、豊橋市立図書館などに所蔵される未発掘実録の調査を行った。また、個人所蔵の実録を調査する機会も得られ、それぞれデータを増やすことができた。 合わせて、今年度は、実録の叙述の方法における特徴抽出の一環として、登場人物に注目し、とくに、妖術遣いとしてさまざまな実録に登場する森宗意軒について調査した。宗意軒にゆかりのある天草森宗意軒神社の実地調査を行い、とくに『慶安太平記』に記述される地名が実在の地名であることを明らかにし、また、森宗意軒が登場する実録や、他ジャンル作品を調査することができ、宗意軒の人物造形が形成される様子をたどった。さらに、明治時代に多く刊行されたボール表紙本『慶安太平記』の、宗意軒が描かれる場面に着目し、国会図書館所蔵のボール表紙本のデジタル閲覧・複写を行うことで、宗意軒の構図が類型化されること、それが中国の太公望や琴高仙人などの図柄を元にしているらしいことを解明した。これらについては、『浜辺の文学史』所収「海辺の森宗意軒」に論文として発表している。 ほかに、実録としてよく読まれたもののひとつ、「中山大納言物」の諸本に注目して、上記所蔵先のものや、島原市立松平文庫所蔵のものをデジタル撮影し、調査を行っている。このことによって、先行研究にはほとんど触れられていなかった諸本について、委しく分析をすることができた。この結果については、翌年度中に論文化を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、各地の所蔵機関における資料調査・収集を集中的に行う予定であったが、調査先との日程調整がうまくいかない部分もあり、当初予定していた調査活動の、七割程度の実施に留まった。また、科研費テーマに関する(当初予定していなかった)依頼論文執筆の準備に時間を取られ、網羅的な調査活動がしにくい面もあり、研究の遅れにつながったことは否めないが、反面、研究成果の一部を発表するに至っている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度については日程確保の問題から、調査を断念せざるを得なかったことがあり、このことについては、予算執行の工夫もしつつ、短期間ずつ、複数回、調査先に向かうことで解決したい。 なお、未発掘の実録写本の、すでに収集済みの画像データ(や複写物)の、内容分析へ重点をずらすことによって、調査した実録のリストや、実録本文の特徴抽出の研究を推進していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由としては、調査予定としていた場所に調査に行けず、旅費に残額が出てしまったことと、今年度購入予定であったノートパソコンや図書等の物品の購入を見直したことが挙げられる。旅費については、調査先との日程調整がうまくいかなかったという事情があり、物品購入については、ノートパソコンの場合は、本研究実施以前に使用していたパソコンを更新するための購入予定であったが、本研究にいたるまでに蓄積していたデータを、今年度は継続して参照していくという必要が生じ、今年度については、従来のものを使用した方が研究の利便性が高いことが判明し、次年度に購入時期をずらすこととした。図書の場合は購入予定であった図書が、著者から寄贈されたり、古書の場合、妥当な価格の古書が流通していなかった事情がある。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、研究計画に基づいた平成29年度の研究を遂行していくとともに、今年度に購入を見送ったノートパソコンの購入、今年度調査に行けなかった調査を行うことで、順調な執行をしていきたい。すでにパソコンについては、購入すべき機種の候補を検討しており、あわせてデータベースソフトも購入を計画している。調査については、調査先で閲覧すべき資料を、目録などから抽出し、先方の都合とこちらのスケジュールとを合わせて調査候補日の検討に入っている。
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