今年度は、ひとつは、「中山大納言物」と呼ばれる実録群について整理を行いつつ、それぞれの叙述方法を確認(この研究は前年度からまたがる)し、さらには近代以降、大正期までを視野に入れた「中山大納言物」の受容を、小説、講談速記本、絵本、歴史関係書などから調査した。そこには、それらがどの系統の中山大納言物実録を利用しているかであるとか、どのような改変、叙述法を駆使しているか、など検討することができ、中山大納言物実録の近代への影響力を確かめることができた。その成果は『明治の教養』(鈴木健一責任編集・勉誠出版)において発表している。 もうひとつは、近世における城郭の怪異と実録との関わりについて検討した。近世における、怪談を収める諸書を広く通覧、また、現在判明している、怪談を扱った著名な実録なども内容確認し、近世の怪談書のみならず、大名家などのスキャンダルも取りあげる実録もまた、城郭や武家屋敷を舞台とする怪異が取りあげにくいものであることを明らかにした。また、城郭や武家屋敷の怪異を収める資料がどのような性質のものに記されるか、これらを扱う資料では、どのような書き方がされているか、城郭や武家屋敷の怪異を扱う話の特徴にはどのようなものがあるか、などを浮き彫りにした。これらの成果は、説話・伝承学会の二〇一九年度春季大会シンポジウムにて報告している(報告内容については、当該学会誌にも掲載予定)。 この他、研究期間中には、実録・軍記類にみえる織田信長の描かれ方、とくに足利義昭との関係や豊臣秀吉が活躍した三木合戦の場面に注目して調査しており、それぞれの特徴について考えることができた。これらについては『信長の虚像と実像(仮)』(2020年刊行予定・井上泰至・堀新責任編集・文学通信)において発表予定である。
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