研究課題/領域番号 |
16K02413
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研究機関 | 名桜大学 |
研究代表者 |
小嶋 洋輔 名桜大学, 国際学部, 上級准教授 (50571618)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 作家研究 / 地域研究 / オーラルヒストリー / 沖縄研究 |
研究実績の概要 |
当該年度は、琉球弧における島尾敏雄という作家の受容を探る二本柱である「沖縄」、「キリスト教」のうち、「沖縄」に関する調査を主として行った。以下箇条書きのかたちで示す。 ①新川明氏へのインタビュー(2016年9月12日、於ダブルツリー・バイ・ヒルトン)、②川満信一氏との会話、③かごしま近代文学館への調査、④奄美市への調査、⑤奄美図書館での講演(2016年10月30日、奄美市、平成28年度鹿児島県立奄美図書館生涯学習講座「あまみならでは学舎」、「島尾敏雄を「研究」すること-『日の移ろい』を読む-」)⑥日本キリスト教文学会全国大会(2016年5月16日、京都市、「島尾敏雄の琉球弧とキリスト教―『日の移ろい』『続日の移ろい』から」)。以上である。 より具体的に述べるならば、①、②は1972年の復帰前後の沖縄において、島尾敏雄を「受け入れた」代表的な存在である新川明氏、川満信一氏に調査を行ったものである。③とした文学館での調査は、当該館にある島尾敏雄の直筆資料を中心に写真撮影、分類を行った。後にも書くことだが、本研究事業においては『日の移ろい』という作品を中心に研究を進めるべきという感触を、当調査において感じることができた。④は学内助成を獲得した前年度よりの継続調査だが、島尾敏雄顕彰会にコミットし、奄美在の島尾敏雄に接した人々に話を聞いている。また奄美市は『日の移ろい』の舞台であるので、その実地調査を行った。こうした中途の成果を⑤で講演を行うことで奄美市に還元し、研究上の展開案について、日本キリスト教文学会全国大会で研究発表を行った。 今後は「キリスト教」に関する調査を行うとともに、『日の移ろい』論の作成を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「おおむね順調に進展している」とした。その理由について以下に述べる。 当初の予定通り、平成28年度は島尾敏雄が琉球弧において、如何に受容されたかに関する「沖縄」の状況について調査を行った。研究実績の概要にも記したように、結果1名へのインタビュー、1名への状況確認、学会での研究発表、奄美市での講演、調査、関連文学館への調査を行った。 結果見えてきた状況が「おおむね」とした要因となる。すなわち、①島尾敏雄と関連した人物の高齢化に伴う直接的な調査が困難な状況にあること(アプローチをかけても無視、断られる場合もあること)、②島尾のプライベートな領域に存する「キリスト教」関連の人物に関しては、アプローチが難しいということ、である。しかし島尾敏雄に関しては平成29年度は記念的な年にあたり、各種イベントが行われる予定である。そこに参加することで、これまで掘り出し切れなった存在を調査できる可能性はある。 また、文学館への資料調査により、本研究事業の対象とすべき作品として『日の移ろい』があるということは確信を得ることができた。この小説が成立するまでに、「現実」がメモ、日記、草稿、初出といったように変異していることは、現実と虚構の問題を考察するに重要な作品であることがわかる。この小説に関する調査を進めることで、島尾敏雄がどのように受容されたか、またその受容をどう小説化したか、という問いに対する答えに迫れるように思う。 以上、少々の方針転換をはかる必要はあるが、順調に調査が進んでいると思われる。そのため「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、平成28年度で見出した現況をふまえ以下のような推進方策をとる。 まず、調査についてである。①『日の移ろい』の成立に関する調査の継続、②『日の移ろい』に描かれた「沖縄」、「キリスト教」に関する調査、③在沖縄島尾敏雄関連人物である川満信一氏、高良勉氏、中村喬次氏へのインタビューの実施、④キリスト教徒としての島尾敏雄を知る人物へのアプローチ、を行う。 その成果については、各種島尾関連イベントのシンポジウムに参加、発表することで公表する。また、名桜大学総合研究所紀要に調査報告あるいは研究論文を掲載する。 最終年度には、中央の学会への論文投稿、研究代表者自身が主催する研究シンポの開催を予定しているので、その目標に向け調査を中心に行う年度としたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由としては、大きく分けて二つの要因がある。一つは予定していた謝金を使用しなかったことである。これはインタビュー対象者にそれを断られたというのが端的な要因である。また、島尾敏雄に関しては平成29年度に各種、各場所でイベントが予定されており、本事業においてシンポジウムを開く必要性を現在感じていない。今後も謝金の使用に関しては予定額よりも少なくなる見積もりである。 もう一点は物品費を250,000円計上していたにもかかわらず、70,000円程度しか使用しなかったことである。当初、持ち運び用のノートPCの購入を考えていたためにこのように計上したが、従前のもので対応可能であったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
上記のような理由で次年度使用額が生じたが、これは想定よりも多くなることが予想される旅費に使用していきたい。かごしま近代文学館での調査は今年度前年の1.5倍は必要とされる。また当初予定していなかった、国立国会図書館での調査の必要性も感じている。及び奄美市では、今年度島尾敏雄に関するシンポジウムが開催される予定で、奄美市への旅費も必要となる。
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