研究課題/領域番号 |
16K02413
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研究機関 | 名桜大学 |
研究代表者 |
小嶋 洋輔 名桜大学, 国際学部, 上級准教授 (50571618)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 作家研究 / 地域研究 / オーラルヒストリー / 沖縄研究 |
研究実績の概要 |
当該年度は、琉球弧における島尾敏雄受容を探るため、「沖縄」の調査を継続して行った。反面、当初予定としてあった「キリスト教」に関する調査はそれほど進めることができなかった。以下その成果を記す。①かごしま近代文学館所蔵資料の調査、②その琉球弧関連資料の洗い出しとその「調査報告」の執筆、③島尾敏雄生誕100年シンポジウム「〈ヤポネシア論〉を問う」への参加、となる。 島尾敏雄と「沖縄」の調査の上でも、以下の要因からその方針転換を余儀なくされた。すなわち、インタビュー予定者からのリアクションがよくなかったということである。インタビュー予定者はそれぞれ執筆される表現者であり、自身が語るよりも、書いたものを読んでほしいということであった。また、高齢を理由とされる方もあった。とくに「キリスト教」について調査を予定していた方々の高齢化は想像を超えていた。 しかし、島尾敏雄生誕100年での新川明氏、川満信一氏の発言を聞くことはインタビューを各自に行うよりも有意義であった。川満氏は自身編集の同人誌で島尾への論をまとめた上に、振り返りも行ってくれていて、その史料の入手、分析できたことは大きかった。 さらに前年度から継続して行ってきた、かごしま近代文学館での資料の写真撮影・分類作業は、その作業で完結するのではなく、様々な可能性を感じさせるものとなった。その成果を最終年度は、学会発表等行うことで公表してゆきたいと思う。 そして『日の移ろい』の草稿をすべて収集できたこと、執筆時の日記資料もすべて収集できたことで本研究事業の集大成たる『日の移ろい』論完成の目途も立った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「おおむね順調に進展している」とした。その理由について以下に述べる。 かごしま近代文学館所蔵資料の調査は予定より進展している。資料を分析することで、島尾という作家における「現実」と「虚構」の境界を分析する術を見いだしつつある。これは本研究計画においてみようとしている島尾と琉球弧の新たな像の構築においても大きな発見といえる。とくにこれまでの研究でほとんど触れられてこなかった、昭和50年代の島尾の沖縄滞在に関する日記の分析は、島尾研究、沖縄研究双方の面から新たな視点を供給できるものといえる。成果としては、そうした日記分析の学会発表や論文作成とともに、在奄美大島時代を小説化した『日の移ろい』論を作成し公表する予定である しかし、本研究事業で目指した島尾と関連した人物のオーラルヒストリーの構築は今年度もやはり厳しいものであった。やはり先にも見たように対象者の高齢化が大きな要因となった。とくに、島尾自身ほとんど文章化することのなかった信仰の問題に関わる島尾と「キリスト教」の問題に新たな視座を提供しようという試みは、大幅な方針転換が必要である。 そこで研究代表者としては、新たに見出した日記、島尾宛書簡等の資料にあらわれる人物像を分析し直す作業を中心に据えたいと考えている。沖縄関連の人物に関する資料の収集はおよそ7割方収集できてきているので、最終年度は島尾の信仰に関わる人物の選定と書かれたものの調査を行いたい。 以上、本研究課題はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策について、以下詳述する。 ①かごしま近代文学館所蔵資料の調査を継続する。資料の写真撮影を今年度少なくとも5回は来館することで終了させたい。ただし、調査を行えば行うほど、調査すべき関連資料は増加しており、本研究課題を超えたところへの興味も抱き始めている。島尾敏雄研究全体に資するような資料の全体像把握まで済ませたいところではあるが、今年度では達成できないだろう。 ②収集した資料の、分析を進め、7月の沖縄文化協会2018年度公開研究発表会での研究発表を行う。そこではとくに島尾が奄美での暮らしを離れたあとの沖縄との関わりが書かれた日記資料の分析を行う予定である。島尾は日記の中で出合った人物たちについて詳細に記録しており、それらを明らかにするだけでも、復帰後の沖縄県と島尾敏雄の新たな像を抽出できる。また9月の奄美沖縄民間文芸学会では、島尾が収集し文章化した昔話について発表を行う。「奄美伝説十三選」では内二篇が妻ミホの文章であり、その文体的な特徴にまで言及できればと考えている。 ③『日の移ろい』『続日の移ろい』に関する論文の発表、随筆「安里川遡行」の草稿、初出稿、定稿の異同分析に関する論の発表を行う。上気したように資料を分析することで、島尾という作家における「現実」と「虚構」の境界を分析する術を見いだしつつある。日記体で書かれる小説、その草稿、実際に書かれた日記、夢日記を比較検討することで『日の移ろい』論を完成させ、島尾と琉球弧の新たな姿を見出したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた、インタビュー調査が実質続行が困難であり、その際に予定していた謝金の支出がないことがひとつの要因である。また、そうしたインタビュー調査対象者を集めてのイベントを計画していたのだが、こちらもやはり高齢化などが原因で実施が困難である。対象者にとって、島尾敏雄との出来事は生の、そして個人的な記憶であり、研究対象となっていないように見受けられた。また、沖縄県の対象者のほとんどが自身が表現者であり、現在の曖昧な記憶よりもこれまでに書いてきたものを資料としてほしいという希望が出されたこともあった。 そこで今後は、もう少し精緻な撮影ができるカメラの購入と、かごしま近代文学館、奄美大島、国立国会図書館でのさらなる調査に、次年度使用額をあてることにしたい。
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