当該年度は、本事業の研究で島尾敏雄の琉球弧受容を構築するにあたり重要と見なされた、①かごしま近代文学館所蔵資料の調査を継続した。そしてその②公開に関わる作業を行った。以下、それぞれの内容について詳述する。 ①かごしま近代文学館所蔵資料の調査は、前年度から「業務多忙」による調査出張回数の減少を充実させるため、学生バイトを雇用し、1回で2回分の調査を行った。その結果、島尾敏雄の「来沖」に関連する資料を網羅的に確認することができた。「来沖」に関しての詳細は、年譜にも記されておらず新たに有効な資料を発掘したということができる。また、晩年にかかる資料の発掘もすすめることができた。中には原稿料、印税に関する記録もあり大変興味深かった。昭和30年代の日記で調査し忘れていた、キリスト教受洗時の日記も収集できた。さらに、「夢日記」のもととなる原「夢日記」ともいえる資料も撮影、調査し、現在刊行されている「夢日記」にどのように通じているか分析を行っている。 ②今年度は、直接的に本研究事業に関連する研究業績を発表することはできなかったが、膨大になってきている資料の整理、分析を行った。特に「来沖」時の日記は、発表する必要があると思う。現在文字起しの作業を始めている。また、直接的に関連するものではないが、「戦後沖縄県の文学と「貧困」―「復帰」以降を中心に―」(名桜大学環太平洋地域文化研究所『環太平洋地域文化研究』1)を書いた。本論執筆の前提には、本研究事業での調査の蓄積があったといえる。また、『琉球新報』紙上に年4回「時評(文芸)」を執筆しているが、その前提にも本研究がある。
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