研究課題/領域番号 |
16K02422
|
研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
石川 巧 立教大学, 文学部, 教授 (60253176)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | カストリ雑誌 / 戦後占領期 / GHQ / 文学 / 検閲 / 風俗 / 猥褻 / 出版 |
研究実績の概要 |
これまでの研究成果の一部をまとめたものとして単著『幻の雑誌が語る戦争』(青土社、2017年12月)を刊行した。同書は本研究のメインテーマである戦後占領期のカストリ雑誌を研究するなかで新たに発見した雑誌資料をもとに、戦争末期から戦後占領期にかけての言論統制とそれに抵抗するようにして書き継がれた文学テキストを分析したものであり、 出版文化研究の領域においても意義のある成果だったと考えている。また、この間、戦後の雑誌文化研究として『月刊「さきがけ」復刻版』(2917年~2018年、三人社)、『「国際女性」復刻版』(金沢文圃閣、2017年~2018年)、カストリ系探偵小説雑誌『「妖奇」復刻版』(三人社、2016年~2017年)の復刻版編集と解題執筆を担当しており、これまでほとんど顧みられることのなかった戦後占領期の大衆通俗雑誌、地方の総合文芸雑誌に焦点をあてる取り組みをしている。さらに、共著としては戦後ヤミ市の風俗・文化を探究した『〈ヤミ市〉文化論』(井川光雄・石川巧・中村秀之編、2017年、ひつじ書房)、福岡市史特別篇『近代福岡の印刷と出版』(2017年、福岡市史編纂室)などを刊行をした。メインテーマのカストリ雑誌に関しては、2019年3月の刊行をめざして、現在『カストリ雑誌総攬』(勉誠出版)の編集作業を進めている。同総攬は1945年~1949年にかけて日本国内で発行された大衆通俗雑誌(いわゆるカストリ雑誌)の図版、目次・奥付情報などを網羅的に蒐集した図録であり、完成すればこれまでの諸研究では類を見ない体系的な出版文化研究となるはずである。具体的には、(1)歴史に埋もれていた文学テキストの発見、 (2)カストリ雑誌ブームとその衰頽に関する実態研究、(3)戦後占領期におけるGHQの検閲とそれに対抗する作家たちの文学的営為に関する研究、などの進展が期待できる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カストリ雑誌研究に関しては、当初から2018年度ないに『カストリ雑誌総攬』を刊行するという目標を立てて準備を進めてきた。現段階では、雑誌の撮影作業とその編集にやや手間取っており、プランゲ文庫資料の原本撮影の目処が立っていないが、こちらについては 今後、出版社を通じてメリーランド大学の担当者と交渉してもらい、作業を円滑に進めてもらう予定である。カストリ雑誌を渉猟するなかで新たに発見した諸雑誌の研究については『幻の雑誌が語る戦争』(前出)を上梓したことで大きな成果につながったと考えている。2018年度には『戦中・戦後の稀覯雑誌と同時代の出版文化に関する研究』のテーマで国際日本文化研究センターに博士学位申請論文を提出する予定になっており、これまでに発表した14本の論文と書き下ろし論文を発表する予定である。科学研究費の執行に関しては2017年度、2018年度と2年続けて予算の前倒し執行をしているが、そのほとんどは雑誌資料の購入にあてている。本研究はプランゲ文庫資料や全国の各資料保存機関が所蔵するカストリ雑誌を閲覧することで成り立っているが、同時に古書店などを通じて雑誌の原本を購入しなければならない局面も多く、それが予算執行の中心を占めている状況である。 2018年度以降はすでに入手した雑誌、コピー、デジタル画像などを中心にデスクワークが 増えてくるため、論文等の執筆に関してはこれまで以上のペースで活字化することができると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
2018年度は日本近代文学会でのパネル発表、海外でのフィールドワーク、講演、研究発表などが数多く予定されており、戦後の大衆通俗雑誌研究の裾野を広げるとともに、問題意識を共有する国内外の研究者との連携を図っていくことが大きな課題となるだろう。また2017年度に復刻版を出版した雑誌『妖奇』や本研究がスタートする前から復刻に取り組んでいた雑誌『黒猫』をはじめとして、今後は戦後探偵小説雑誌の研究にも邁進していきたいと考えている。研究代表者の所属先である立教大学は江戸川乱歩の蔵書や自筆資料が数多く所蔵しており、戦後ミステリーの出発機を考えるうえで極めて重要な資料が揃っている。本研究ではそれらの活用によって、戦後探偵小説雑誌、および、そこに多くの作品、エッセイ等を寄稿した探偵小説作家の研究を進めていきたいと考えている。さらに、2019年3月に『カストリ雑誌総攬』(前出)が刊行されたのちは、それを活用してカストリ雑誌に掲載された個々の小説作品の分析に入っていく予定である。
|