研究課題/領域番号 |
16K02422
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
石川 巧 立教大学, 文学部, 教授 (60253176)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | カストリ雑誌 / 戦時下 / 占領期 / 探偵小説 / 出版文化 |
研究実績の概要 |
2018年度は戦後のカストリ雑誌を調査する過程で発掘された雑誌資料の復刻およびアンソロジーの出版を数多く手がけた。具体的には、石川巧編・解題『『新生活』復刻版』(三人社2018)、 同『海軍外郭団体雑誌『くろがね』復刻版』(金沢文圃閣、2018)、石川巧編著『幻の戦時下文学 『月刊毎日』傑作選』(青土社、2019)がそれにあたる。また、カストリ雑誌には探偵小説雑誌も含まれるため、この間、江戸川乱歩が関わった探偵小説雑誌の研究を続けているが、その成果を石川巧・落合教幸・金子明雄・川崎賢子共編『江戸川乱歩新世紀』(ひつじ書房、2019)として出版した。単独論文としては、「戦時下の北京における出版物取締と雑誌『月刊毎日』」(『大衆文化』第19号、2018・10)を執筆し、戦時下の外地における出版物の取り締まり状況を検証した。さらに、2018年11月にはカストリ雑誌研究の成果も含めた博士学位申請論文『戦中・戦後の稀覯雑誌と出版文化に関する研究』を総合研究大学院大学(国際日本文化研究センター)に提出し、博士号(学術)を取得している。カストリ雑誌研究に関しては『カストリ雑誌総攬』(勉誠出版より2020年度刊行予定)のデータ入力作業が進んでおり、現在、収録雑誌の目次作成を進めている。研究者20名以上が集う大規模なプロジェクトになるため、2020年度の出版助成への申請などを準備中である。学会発表としては、日本近代文学会・2019年度春季大会(2018年5月)のパネル発表において「江戸川乱歩所蔵資料の活用による探偵小説研究」というテーマで議論を行った。2018年8月には韓国高麗大学校で開催された日韓学術交流会において「戦時下の北京における出版物取締と雑誌『月刊毎日』」のタイトルで講演を行い、東アジアの日本文学研究者が協力して戦時下・戦後占領期の雑誌出版に関する研究を行うことの必要性を説いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は5年計画の3年目を終えた段階であり、これまでの資料調査の成果を出版物として公開する準備段階に入っているといえる。個人としては現在日本国内で蒐集できるカストリ雑誌の全容がほぼ明らかになりつつあると考えており、2020年に『カストリ雑誌総攬』(勉誠出版)を刊行することでその集大成にすることができると考えている。共同研究としては、この間、「占領期ローカルメディアに関する資料調査および総合的考察」(基盤研究B、代表:大原祐治)にも加わり、カストリ雑誌研究を戦後占領期の出版文化に位置づけながら巨視的に考察する視点を獲得することができた。また、2019年5月には国内最大の雑誌専門図書館である大宅壮一文庫と連携して雑誌文化研究会を発足させ、戦後通俗雑誌を様々な角度から検証する準備を始めている。本研究は「カストリ雑誌」を中心にしたものだが、そこから派生して戦後占領期の出版文化を広く論じることができる状況が生まれつつあると考えている。調査した資料の出版・公開に向けての作業も着々と進んでおり、概ね予定通りの進捗状況といえる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究予定としては戦後占領期に国内で発行された「カストリ雑誌」(探偵小説雑誌などをはじめとする通俗雑誌も含む)を対象としていたが、資料調査を重ねる過程で、戦時下の外地日本語雑誌にも関心が広がりつつある。実際、アンソロジーとして刊行した『月刊毎日』をはじめとして稀覯雑誌が次々と発見・発掘されている状況であり、本研究は対象の射程をやや修正し、戦時下から戦後占領期にかけての文芸総合雑誌を含むかたちに再構成したいと考えている。2020年に『カストリ雑誌総攬』(勉誠出版)を刊行したのちは、戦時下に外地で発行された日本語雑誌(主に中国各地域)を中心に調査を開始していきたいと考えている。また、同じく「カストリ雑誌」を調査している過程で、それが戦後の探偵小説ブームと連続した問題を含み込んでいることが明らかになった。そこで、本務校が管理している旧江戸川乱歩邸の旧蔵資料を精しく調査して「江戸川乱歩と探偵小説雑誌」に関する研究もはじめている。以上のようなかたちで当初の構想が徐々に大きな問題へと拡大しているため、今後は個人研究と共同研究をうまく接続させながら課題に取り組んでいく必要があるだろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
雑誌のデータ入力作業を行うなかで予想以上に時間がかかり、アルバイトの謝金が想定を大きく上回ることになったため。
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