研究課題/領域番号 |
16K02423
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
和田 敦彦 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (90283225)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 日本近代文学 / 流通 / 東南アジア / 日本語蔵書 |
研究実績の概要 |
本研究は、近・現代東南アジアの各国における日本語文献の受容・流通について明らかにすることを目的としている。そのために、各地に保存されている日本語文献の調査を進め、それらの情報をもとに、日本語文献の流通の実態と役割を歴史的に解明していく。 平成29年度においては、これまでに進めてきたベトナムにおける日本語文献、特に規模の大きい資料群であるベトナム社会科学院所蔵の日本語資料の調査、目録化の作業が、一つの区切り目を迎えた。すなわち、これまで5年間にわたる作業の結果、この機関の保存する約11000冊の日本語資料の目録化を終了し、そのデータを当該機関や、内外各機関との連携のもとで公開する段階に至っている。それにともない、当該資料に含まれる個々の資料に関する調査や、資料群の成立過程の調査も進めることができた。これらは、研究報告や論文として、国際学会を含めた場で公開を進めていった。 また、ベトナム以外では、インドネシアにおける日本語文献について、特に戦時下ジャカルタでの日本文庫成立の分析を進め、研究成果として公表した。ベトナム、インドネシアのそれぞれの資料に共通する課題として、それら資料とアジア・太平洋戦争期の日本の文化宣伝活動との関わりが重要となってきた。今後、この課題も重視しながら、各地での資料調査を進めていく必要がある。 平成29年度の調査では、ミャンマー、及びシンガポールでの調査をあわせて行った。シンガポールでは特に国立図書館の日本語資料を重点的に調査した。また、ミャンマーでは、ヤンゴンで国立図書館、及び大学等研究機関の所蔵する日本語資料について調査にあたった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでのところ、東南・アジア各国の日本語資料調査は順調に進んでおり、各地の資料情報や書誌情報の作成も進んでいる。インドネシア国立図書館の日本語資料については、書誌データを作成後、所蔵機関、及び本研究代表者によってオンラインで公開されている。ベトナムの社会科学院所蔵日本語資料については、和装本全体の目録情報の作成を終えてはいたが、明治期以降刊行された約6000冊あまりの洋装本の日本語資料を調査、データ化することが課題となっていた。これらについて、昨年は現地で約11000枚の資料の撮影データを作成、それらをもとに日本国内での書誌データ入力を進めた。この作業は平成29年度でほぼ終了することができた。平成30年度以降も若干のデータの補正が必要となるが、基本情報をほぼ整備されてきたと言える。今後は、それらのデータを、より広く、有用な形で公開、提供することに力を注いでいく必要がある。また、全体の目録情報のみではなく、個々の所蔵資料についてのより踏み込んだ研究を進めていくことともなる。 これら地域以外では、ミャンマー、及びシンガポールでの調査を平成29年度に行うことができた。しかし、ミャンマーについては、規模の大きい蔵書は現在の所、確認できていない。一方、シンガポールについては、シンガポール国立図書館の協力を得て、同機関の所蔵資料の調査を進めることができた。所蔵する日本語資料、特に第二次大戦中、及び戦前の資料に焦点をあてて調査を進めており、今後も継続的な調査が必要になる。 東南アジア各国の調査は進んではいるが、いまだラオスの調査がなされておらず、平成30年度に調査を計画する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題を進めていく方策は、東南アジア各地の日本語資料の所蔵状況の調査・解明と、それら所蔵資料自体についての書誌情報や内容の分析との、二つの大きな柱によって成り立っている。このうち、所蔵状況に関しては、未調査地域の調査を進めていく必要がある。未調査の国としてはラオスがあるほか、これまでに調査を行った地域の中でもシンガポールとフィリピンについては、これまでの調査を補完するための追加調査を行うことが可能かどうかを検討する必要がある。 とはいえ、本研究課題の作業は、各地での資料の所在調査よりも、これまでの調査で見いだされた資料の研究、及び成果公開に重心が移ってきている。東南アジアの各国においては、日本語資料についての保存、目録化、活用にあたっての十分な体制が整備されていない地域も多い。それぞれの所蔵機関における日本語資料の保存や活用を支援していくための活動も重要となる。 また、所蔵資料の内容研究について、より踏み込んだ研究を今後展開していくことが可能となる。また、本研究では、単に一国の内部での資料の意味のみならず、東南アジア諸国と日本との歴史的な関係の中で、これらの資料の動態を研究している。こうした研究を進めていくことで、東南アジア各地の日本研究と連携し、成果をあげていくことも課題となろう。 加えて、第二次大戦期下での日本の文化宣伝活動との関係をとらえる場合、東南アジア地域での活動と、欧米における活動との比較、検討を行う可能性も出てくる。これらの可能性を視野に入れつつ、調査・研究を進めていくこととなる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究報告書の支出額が確定する時期に遅れが生じたため。
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