研究課題/領域番号 |
16K02424
|
研究機関 | フェリス女学院大学 |
研究代表者 |
吉田 弥生 フェリス女学院大学, 文学部, 教授 (00389876)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 日本文学 / 近世文学 / 歌舞伎 / 芸能史 / 演劇学 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、黙阿弥が手がけた作品のなかでも多くを占め、明らかに講談から素材を得て書いたと思われる、およそ80作品の再調査を行うことを目標とした。いくつか作品をとりあげての考察もそこでは行うべきと考えて、「雲霧仁左衛門」をとりあげた作品に着手した。成果としては、目標とした講談作品の再調査とは別に、幕末の歌舞伎評判記を調査し、黙阿弥と四代目市川小團次、および九代目市川團十郎との作品を通じた関わりを再検討し、主として九代目團十郎と「新歌舞伎十八番」の制作、リアリティの志向が向かわせた方向等を広くとらえた試論をまとめた。具体的には「奥から表へ -女歌舞伎の種・芽・蕾―」(『玉藻』第52号、2018年3月、フェリス女学院大学国文学会)中の「二 芽―明治期に活躍した女役者」において、明治期に活躍した女役者・市川九女八を九代目團十郎がその門下としたことに含まれる意味を考察した。九代目團十郎は、明治に入りまもなく市村座の座頭を相続すると「新十八番」活動をはじめ、黙阿弥はそれへ作品を提供する関係を持ったが、その後は史実に近い内容を目指す「活歴物」の創造に応じたこと、そのリアリティ追究の延長線上に、女役者・九女八の指導があったこと、結果として黙阿弥の作品の提供が契機として含まれることが推測できた。論のベースとしては女歌舞伎の発芽から近代の展開を考察するものであったが、近世から近代への変動期の歌舞伎と黙阿弥の関与をみることとなった。さらには、研究史データの整理を進めるとともに、成果公開の構想を固めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一つは、黙阿弥作品が書かれた状況を見据える、という視野を重視し、作品成立と関わりが考えられる素材の収集に努めたこと。もう一つは作劇の変質を余儀なくさせられた事象を改めて考え直したこと。これらを行うことで、成果をまとめる方針が見えたことがその理由といえる。結果として今日まで黙阿弥作品に固定的なイメージとなってきた「白浪作者」「七五調を用いた世話物」「近代の荒波と闘った最後の江戸作者」に限らない新たなイメージが添加しうる見方、そうした見方を支えうる研究業績の集積、その双方による「再構築」という目標達成につながっているかとみて、判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
細部から「再構築」をし直す予定で始めた研究だったが、これまでの研究成果にも頼りながら、上演頻度の高い作品や現代歌舞伎のレパートリーとなっている作品ばかりに研究が偏り、そのために見えてこなかった部分、つまり既成研究の「欠け」を見出し、そこを埋める方針にシフトすることとした。内容的には、黙阿弥作品の素材論や作劇環境の再考などであるが、今後においては公開性を念頭におき、情報の整理とスタート2か年で考察を進めてきたものをまとめる準備に入りたい。出版の準備とともに、明治150年とも関連させた黙阿弥に関わる国立劇場所蔵の資料を整理、展示監修を行う予定もあり、複数の方法で成果発信する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
家庭の事情(家族の病気)により予定していた出張旅費を使用しなかったため。また、当初予定していたデータベース作成に関わる人件費が未使用だったため。
|