研究課題/領域番号 |
16K02428
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研究機関 | 奈良大学 |
研究代表者 |
木田 隆文 奈良大学, 文学部, 准教授 (80440882)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 汪兆銘政権 / 外地文学 / 文化支配 / 武田泰淳 / 池田克己 / 中日文化協会 / 上海文学研究会 / 上海 |
研究実績の概要 |
本研究は汪兆銘(精衛)政権統治下の各地域で展開した日本語文学の実態を究明すべく、その基礎資料の整備および、現地邦人文学者・文芸文化団体の動向調査を試みるものである。そのため研究初年度である平成28年度においては、研究基盤の確立と次年度以降の研究を具体的に進展させるための文献情報の整理および基礎資料収集に努めた。 具体的には国会図書館・日本近代文学館・東洋文庫などの国内主要図書館、上海図書館徐家ワイ(さんずい+匯)蔵書楼などで関連文献の所蔵調査・収集を行い、同時に古書市場で確認できた関連文献の購入をすすめた。なお当初の研究計画では、研究対象を長江流域の各都市に絞っていたが、調査過程で関連文献が北京・天津など北支の汪兆銘政権勢力範囲にもあることがわかってきた。そのため北支地域の日本人居留民関連の基礎資料の購入・収集をすすめ、次年度以後の調査に備えた。 そしてこれらの文献調査収集の結果、上海図書館徐家ワイ蔵書楼において、戦時上海で行われた文学懸賞の入選作品集である『神鷲』を発見することができた。それにより武田泰淳・池田克己といった文学者の逸文を見出すことができたと同時に、戦時上海における邦人文学者の動向と文化支配の実態解明に新たな実例を加えることができた。なおその成果については、本年度中に「武田泰淳『神鷲』の後景―日本統治下上海の文学懸賞」と題する論文として発表した。またその他の収集資料についても同じく本年度に刊行したいくつかの図書において部分的に紹介を行った。 さらに本年度は、日本上海史研究会の高綱博文氏・堀井弘一郎氏、中日文化協会研究会の竹松良明氏、日本ライシャム研究会の大橋毅彦氏ら複数の研究団体・研究者との連携のもとで研究を行った。そしてその活動の一環として、堀井氏とともに論集『戦時上海グレーゾーン―溶融する抵抗と協力』(勉誠出版)を編集・出版した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新出資料の発見にも恵まれ、論文・編著など研究成果を公開することができた。また調査過程であらたに北支地域への調査の可能性が見いだせるなど、今後の布石を得ることもできた。 その一方で、文献の細目作成等、研究資料の公開の準備にやや遅延が生じている。ただし文献はすでに入手しており、次年度には他の研究者と連携して細目作成を進める準備もしている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、すでに入手済みの文献の整理・細目作成等を行うことはもちろん、国内外の図書館においてさらなる資料探索を進めることを予定している。 特に次年度は、本年度の調査過程で新たな可能性が見いだされた北支地域の調査を試みることとし、特に北京国家図書館・天津図書館などに比重をかけて調査することを計画している。 また新たな資料収集とともに、すでに入手した資料の精読・分析を行い、他の研究者との連携協力のもとに、外地文学関連資料の細目作成を行う。そしてそれら作業を通じて、汪兆銘政権勢力下における現地邦人の文学・文化活動の検討と、そのネットワークの解明を進めることを目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度計画では、これまで未調査であった中国地方都市での図書館調査を予定していたが、種々の事情により上海図書館のみの調査となった。そのため地方調査で必要となる通訳代を支出する必要がなくなり、人件費の使用がゼロとなった。また海外調査の削減で余った予算は、次年度以後の予備調査として必要な北支日本人居留民団関係資料等の購入に振り替えることで研究の充足をはかったが、海外調査予算より少額で収まったため、全体として当初予算金額より少ない支出にとどまった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度も引き続き資料収集および国内外での調査を行う。その際に本年度手薄となった海外調査に比重をかける計画であり、本年度より予算額の執行が計画的に進むと考えている。なお次年度使用額として繰り越した金額は、国会図書館所蔵のマイクロ資料の購入に充てる予定である。
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